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アフリカを知るために(中)――非合法の経済

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 「アフリカが貧しいのは、政府に問題があるからだ」と、『アフリカ――苦悩する大陸』(東洋経済新報社)のロバート・ゲストは言う。そして、政府はみずから富を生むことはできないが、国民が自分達の力で富を創造できるように、環境を整えることはできる、と訴える。脱植民地後に、いくつかのアフリカの国が計画経済を構築しようとして失敗したことを受け、市場経済の健全な育成、発展、それを可能にする国づくりこそが、アフリカを貧困と危機から脱出させると主張するのだ。

 豊穣な資源に頼る経済がアフリカを発展させることはないという見方において、ゲストの考えは白戸圭一と一致する。資源に頼っていては、例えば、“石油でたっぷり収入があるから政府はほかの産業をほとんど育成しようとしない。アンゴラのコーヒー農場はとっくの昔に荒廃してしまった”という状況になる。

 資源開発による収益は、一部の人々に集中し、強大な権力を生み出す。政府はそうした権力の上に立てられ、民衆を抑圧し、みずからの利益のために時に部族意識を利用する。ルワンダの“フツ族もツチ族も、それぞれの政治指導者がけしかけて初めて、血で血を洗う抗争を繰り広げるようになった。

 そして、“1990年代には、少なくとも11か国が天然資源(あるいはその発見の可能性)をめぐって戦争に揺れた。アンゴラ、チャド、コンゴ共和国、スーダンの内戦は石油から火がついた。シェラレオネではダイヤモンド、コンゴ共和国とスーダンでは、鉄、木材、ダイヤモンドとドラッグの利権をめぐって反乱軍が戦闘を繰り広げた”。

 逆に、絶望的なまでに拡大しアフリカ全域で荒れ狂うエイズを抑制・阻止できることを、ウガンダやセネガルが証しているという。ゲストが、「政府が問題」という所以である。

 アフリカが豊かになるためには、あらゆる富裕国がしてきたように、「ほかの人々が金を出して買ってくれるような、物やサービスを生み出す」しかないとゲストは主張する。“アフリカには肥沃な土地も安価な労働力も豊富にある。食用作物を栽培して裕福な国々に売るには最適だ。安価な労働力は、繊維製品など簡単な製造業にも向いている。しかし不幸にも、富裕な国々は関税障壁を設け、まさにこれらの商品を閉め出しているのだ”。

 アフリカの真の発展を望むなら、先進諸国も、援助や資源開発(収奪)ではなく、アフリカの産業の育成に力を注ぐべきなのだ。即ち、アフリカ諸国の製品に門戸を開かなければならない。アフリカの意識ある人々もまた、「いつまでも援助というおしゃぶりをくわえていたくなどない」と言い始めている。

 科学技術の導入も必要だ。科学技術は、裕福な国々をさらに裕福にすると同時に、貧しい国の人々をより健康にし、食物を増やし、寿命を延ばし、様々な娯楽を提供する。例えば、固定電話はいまだに費用が高く通じないことも多いが、携帯電話網はまるでイナゴの大群のようにアフリカを席巻している。

 何の知識も技術もない自分が、さまざまな生活上の知恵を持ったアフリカの人々がすむあばら家に比べると宮殿のごとき家に住んでいること、そして自らの家が何百万人もの人々のネットワークの産物であることを思えば、世界の貧しい人々に必要なのは資本主義であり、健全な産業育成のための法の保護だ、とゲストは断ずる。

 だが、現実には、アフリカではほとんどの経済活動が、法制度や規制など公的な枠の外で営まれている。そうした経済活動をエコノミストたちは、「インフォーマル経済」と呼び、取るに足りないものと考えているが、大方のアフリカの国々でインフォーマル経済はフォーマル経済を上回り、正式な職業に就いているひとは10人に1人、残りの10分の9は無視されている、とゲストは訴える。

 そうした「インフォーマル経済」をより積極的に評価するのが、『「見えない」巨大経済圏――システムDが世界を動かす』 (東洋経済新報社)のロバート・ニューワースである。「システムD」のDは、アフリカやカリブのフランス語圏の俗語「デブルイヤール」(要領がよく、やる気に満ちた人)から来ているらしく、商業登記やお役所の規制なしに、大部分は税金もおさめずに行われる、「非合法な経済圏」である。

 早朝だけのストリートの露天商、ゴミを漁る人びと、リサイクル業者、路上や交通機関に出没する物売り、そして密輸業者……。

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