情報ネットワーク法学会
2013年09月26日
「ネット選挙」と呼ばれた今回の参議院議員選挙は、ネットの情報を参考にして投票した有権者が少なかったことなどから、失敗だったのではないかとの見方も出ている。しかし、政党の立場からは違った視点も見えてくる。討議では、争点を巧みにコントロールして、他党よりも有利な展開に持ち込む「選挙マーケティング」に成功した自民党の姿が見えてきた。その手法の功罪をめぐって、意見が交わされた。(構成・新志有裕)
<藤代>選挙マーケティングの話が気になります。ネット選挙については「失敗だった」「盛り上がりに欠けた」と報道されていますが、政党による政治マーケティングはある程度成功したのではないでしょうか。自民党はソーシャルリスニングを試みたことを、各メディアの取材で明らかにしています。今回、西田亮介さん(討議メンバー)が取り組んだ毎日新聞の調査以外でも、「原発」というキーワードがツイッターでたくさんつぶやかれたことは指摘されていました。
ですが、原発は争点にならなかった。自民党の選挙戦略が「いかに原発を争点化しないか」という点において功を奏したのではないかと考えています。与党からすれば、ツイッターでボリュームが大きい原発問題に触れず、いかに投票率を下げて自分たちの支持層を固めるかということを考えるのは当然のマーケティングでしょう。逆に言えば、選挙戦略に失敗したのは野党ではないでしょうか。
<一戸>今の話でいうと、原発については、一般の世論としては盛り上がっていないけれど、ネット世論では盛り上がっているので、両者が接続しないように切る事はできるということでしょうか。あるいは、極端な意見がネット世論で出ているので、それに適切に対処するという使い方は結構有効だと分かった、と言えるかもしれません。そういう消極的な使い方として、ネット選挙の戦略がありうるのでしょうか。
<西田>ありえますね。ネットで原発問題が大炎上してても大多数の有権者の投票行動には影響しません。なので、自民党もネットでは再稼働の話をしても、他の媒体ではしないようにした、ということなのではないでしょうか。リアルの場では再稼働とは明言しないわけです。
こうした選挙戦略を馬鹿にしているから野党もメディアもダメなのではないでしょうか。ネット選挙といっても、政党は選挙に勝つために使うわけです。目的があって、そのために利用する。
<伊藤>選挙マーケティングの観点から見ると、やはり自民党の取り組みが目立ちました。全候補者にiPad miniを配って、そこに毎日、ニュースの中から演説で使えるようなネタと「模範回答」を自民党本部が送ってやり、候補者がそれぞれの街頭演説でしゃべる訳です。
党本部の舞台裏には、ソーシャルリスニングをやって、有権者の動きを分析したチームがいる。全国の候補者がiPad miniに書いてある内容を参考にして同じようなことをしゃべっている。しかし、聴衆にそのことは分かりません。そういった取り組みを自民党以外の政党がどこまでやっていたのかどうか。
<山口>今回のネット選挙で最も成功したのは、選挙ビジネスで特需を得た人です。90年代さながらのHPをつくって何十万円みたいな世界が展開されていました。そうした流れの中で、ネット選挙に関するバラ色の夢も語られたのだと思いますが、選挙が終わってみて、実際はそうじゃないと分かってきました。次回は各政党がもっと賢くなるでしょう。
そもそも、ネット選挙を導入してよかったのかどうか。例えば、特定の政党や候補者に対するデマや個人攻撃がどこまで拡散したのかというのがありますが、大勢として、影響はほとんどありませんでした。東京選挙区では脱原発派の山本太郎さんが勝ったかもしれないけれど、選挙自体は自民党大勝でした。民主党がダメダメだというのも選挙前から分かりきっていたことです。
では、ネット選挙の影響はどれくらいあったのでしょうか。本当は詳細に検証しないと分かりません。ネットが夢を実現するといった単純な楽観論が出たり、ネットの光と影みたいな距離をおく悲観論が出たりすると、何年も前の「ダメなネット論」の流れを再生産しているように思えてならないですね。
<藤代>もうちょっと先の話をしましょう。
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