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「あまちゃん」に描かれた地元=ベタ回帰

西森路代 フリーライター

 朝日新聞デジタルで公開された、宮藤官九郎のインタビュー「『じぇじぇ』ヒットの秘密 宮藤官九郎に聞く哲学と手法」を読んだ。これを見ると、「あまちゃん」は田舎と都会を描きながらも、結局は「人」であるということがテーマとして大きいようである。

 インタビューの中で宮藤氏は「田舎の人は自分の場所のネガティブなところばかり言うけれど、主人公のアキからみたら全部新鮮に見える」と語っている。これは、宮城県から上京した宮藤氏の実感も入っているだろう。田舎で30年間暮らし、その後、上京した自分にも、田舎の人間の気持ちと、そこに初めてやってきたアキの気持ちの両方がわかる。

 自分は愛媛県松山市出身だが、道後温泉には6歳の頃に一度行ったきりで行っていないし、松山に住んでいる頃は、観光客が行くような場所の価値はまったくわからなかった。

 しかし、上京して10年もたつとゲンキンなもので、道後温泉の風情には非常に惹かれるし、今度帰ったら入ってみようと思う。自然を眺めながらその土地で獲れた新鮮なものを食べる贅沢さも都会に行ったからこそわかるようになった。なんなら今度帰ったら写真もいっぱい撮って、SNSにその写真をアップしたいくらいだ。

 こうした田舎の価値は遠くに行ったからこそ見えるようになった。田舎にいた頃は、遠くにあるからこそ都会の価値が絶対で、ご飯を食べにいくのも地元の郷土料理屋よりは、東京のスタイルを模したイタリアンのほうがかっこいいと思っていた。東京から来た人にも、そういう地元の最新スポットを紹介していた。

 そして、自分が上京してから初めて、いやいや、そういうものじゃなくって、田舎っぽいものを東京の人は求めていたんだなと知って自分の田舎っぽさに赤面した。田舎っぽいものの良さがわからないことが田舎ものだという矛盾を知ったのである。

 しかし、都会の人も、東京に新名所ができても、なかなか行かない。もっと言えば、「田舎から来た人は本当にああいう新スポットが好きねえ……」などと、アンニュイに肘をつきながら言うのだ。もちろん、それが都会者の洗礼のような気がしてきて、上京して10年目の私なども、似たようなことを言ったりすることもある。でも、新スポットに行くと、気分はあがるし、積極的にベタなことをしてみると、自分の素直な部分を発見して妙にいい気分になったりもする。

 このように、身近なスポットをありがたがらないのは都会人だけではない。田舎者だって、身近なスポットのことはまったくありがたくない。都会人が田舎に新鮮さを感じるのと、田舎者が東京の新スポットをありがたがるのは、ある意味同じ構造だし、身近なものには新鮮さを見いだせないのは割と自然なことである。こうした態度はある種のスノビズムも関係するのではないだろうか。

 そもそもスノビズムは、俗物根性と訳される。俗物根性というと、スカイツリーができたら、喜び勇んで行列に並び展望台に上る人のことを指すような気がするが、逆に、スカイツリーができたらすぐに並んでしまう人を冷ややかに見てしまうような根性のことをスノビズムは指しているのではないかと思う。

 また、ウィキペディアを見ると、「知識・教養をひけらかす見栄張りの気取り屋」と書いてある。だとすると、宮藤氏は、知識・教養をひけらかしてはいるわけではないが、小ネタをちりばめ、わかる人に笑ってもらえばいいという手法の人である。現代のスノビズムにおける知性がサブカルチャーにまで及んでいるとすると、宮藤氏もスノビズムの人である。これは、きっとご本人も自覚していることだろう。

 しかし、昨今はこうした目線にだけ立っていたのでは何も解決しないから、そこから離れよう、ベタに回帰しようという動きがある。それは、スノビズムのど真ん中にいた人の反省として始まっていることが多い。ベタを受け入れられない複雑な自意識こそが、ちょっと恥ずかしいものなのだという考えも見られるようになった。だから、「あまちゃん」での宮藤氏は、コネタを散りばめるスノビズムの手法は芸風として残しながらも、ヒロインのアキやユイの行動としては、脱スノビズムを進めている。

 例えば、アイドルになる夢をあきらめたユイから「なんで(アイドルになろうと)やってたの?」と聞かれたアキが、「楽しいからに決まってるべ! ダサいけど楽しいから! ユイちゃんと一緒だから楽しいからやってたんだべ! ダサいくらいなんだよ我慢しろよ!」というシーンは、ドラマの放送中にも話題となった。

 こうした物事を斜めに見て楽しまないことはカッコ悪い。もっと素直に楽しもうという、ベタ回帰は、「あまちゃん」に限らず、ここ1~2年で見られるようになった現象である。

 例えば、お笑い芸人のマキタスポーツ氏の

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