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「ジョンはいいけど、ポールはね」ってホント?

近藤康太郎 朝日新聞諫早支局長

 ある人気ミュージシャンに聞いたことがあるのだが、「いい曲」「いいメロディー」を書き続けるのは、たとえそれができたとしても、悩み深いものなんだという。いいメロディーの優しい曲って、ライブの対バンが激しいリズムでガガッと押してくるようなバンドだったりすると、食われちゃうこともあるんだ、と。確かに。

 ポール・マッカートニーの楽曲も、思えば、長いことそうした見方に苦しめられてきた。

大相撲を観戦、横綱・白鵬の土俵入りに拍手を送るポール・マッカートニー=2013年11月14日、福岡国際センター拡大大相撲を観戦、横綱・白鵬の土俵入りに拍手を送るポール・マッカートニー=2013年11月14日、福岡国際センター
 2013年11月、待望の来日ツアーで、日本全国たいへんなことになっている。チケットは即日ソールドアウト、オークションでは高値がつき、新聞・テレビも大騒ぎだ。

 ビートルズの楽曲をとりわけ多く演奏することを事前に報道され、聴衆の期待が高まっている。

 ビートルズ時代のポールの曲を、このところ改めて聴き直してる。「ヘイ・ジュード」「レット・イット・ビー」の超絶名曲。「イエスタデイ」「ブラック・バード」など、宝玉のような小品。「ハロー・グッバイ」「レディー・マドンナ」「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」の、ロックというにはポップ過ぎる(?)曲たち。

 そうなのだ。メロディーがよすぎるのだ。事実、ビートルズを解散して出したソロ1作目「マッカートニー」、2作目「ラム」には、そうした評がつきまとった。メロディーに頼りすぎる、と。

 売り上げではソロ後も大成功を続けて、天性のメロディーメイカーの面目躍如だった。でも、それだけに、時がうつると、古くさく見えてくる。

 70年代末期、ロンドンパンクの嵐が吹き荒れると、ポールは保守的ロックの右代表にされた。なにをのんきなラブソングを歌ってるんだ、おれたちには職がないんだ、食うに困ってんだ、本当のことが聞きたいんだ……。若者の荒れ狂う気持ちと、大金持ちのポールの書く曲は、乖離していった。

 ソロに転じたあと、最初は苦戦していたジョン・レノンも、徐々に実力を発揮し始める。「イマジン」「ハッピー・クリスマス(ウォー・イズ・オーバー)」「ジェラス・ガイ」「パワー・トゥ・ザ・ピープル」など、ジョンの最重要曲はむしろビートルズ時代ではなく、ソロ時代にあると認識される。つまり右肩上がり。退歩していない。ポール、いつまでもなにやってんの?と。

1966年6月、ビートルズとして来日し羽田空港に降りたときの有名なシーン。手前からポール・マッカートニー、ジョン・レノン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリソン拡大1966年6月、ビートルズとして来日し羽田空港に降りたときの有名なシーン。手前からポール・マッカートニー、ジョン・レノン、リンゴ・スター、ジョージ・ハリソン
 日本でも長いこと、「ジョンはいいけど、ポールはね」みたいな風潮が、音楽ファンの間にも根強くあった。いや、うそをつくのはやめた。「音楽ファンの間に根強くあった」じゃなくて、自分がまさしく、そういう人間だった。

 パンク以降、売れ線狙いの産業ロックに嫌気がさし、アンダーグラウンドの音楽を追い始めた。エバーグリーンなポップス、メロディーだけでもっている曲、“革新”のないただのラブソングを歌っているポールが、なんというか、「ゆるい」と思うようになってしまったんだ。

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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞諫早支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現在、長崎・諫早支局長。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

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