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Yahoo!トピックスはネットの「NHK」なのか?――連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」から(10)

情報ネットワーク法学会

 エンタメやスポーツだけでなく、社会的に重要なニュースも重視しているYahoo!トピックス(ヤフトピ)。ヤフトピは、ある種の公共性を担う「ネットにおけるNHK」だ、という声が出る一方、NHKのように公共性を重視してももうからないという指摘も出た。公共性と営利性は両立できるのか。Yahoo!トピックスの位置づけについて、討議メンバーの意見が交わされた。(構成:新志有裕)

PVの6割はスポーツ、エンタメ、事件・事故

<藤代>(前回の)Yahoo!Japanの伊藤さんの発表は、事例紹介が多岐にわたっていて、今のネットが抱える問題を適切にとらえたものでした。まずは、発表に対する質問から始めようと思います。

<木村>Yahoo!トピックスで見られていたコンテンツと、新聞記事の違いに触れていましたが、社会的に重要な記事は、放っておいてもウェブの記事リストにも入ってくるのではないかと思います。社会的に必要なニュースとその閲覧数の相関性はどうなのでしょうか。

<伊藤>Yahoo!トピックス全体でいうと、スポーツとエンタメと悲惨な事件・事故でPV全体の6割を占めています。

<木村>残り4割の取り合いになっているのでしょうか。

<伊藤>そうです。昨日で言うと、マイナンバー(社会保障・税番号制度)法案が成立したという話がありました。Yahoo!でも、色々な切り口で記事を出し続けていたと思いますが、全体の平均以下のPVでした。毎日、全体で70本くらい出しているなかで、30位以下でしょう。

ヤフトピをめぐる議論ヤフトピをめぐる議論
<生貝>重要な情報が拡散しない、瑣末でどうでもいい情報が広がるというネットの性質はそのとおりだと思いますが、そうはいっても個々の情報の価値の上下は、なかなか決められないと思います。

 ベネディクト・アンダーソンのいう「想像の共同体」を重視するなら、情報の「共有」こそが重要になります。ネットで影響力をもつニュース媒体は、何を重要なものとして情報発信するのでしょうか。

<伊藤>Yahoo!ニュースの場合は、社会的に価値の高い情報であるとか、人命に関わる話とか、社会に大きな影響を与えるものなど、一般的に公共性が高いものを重視しています。あるいは、社会的関心事という点で、多くの人が知りたいと思っている情報、つまりスポーツやエンタメです。「公共」と「社会的関心」の2つを重視して発信しています。

 とはいえ確かに、どういったものを重要視すべきかは、議論の分かれるところです。例えば、マイナンバーの話って、「国民全員に関わる話なので、知っておいた方がいいですね」という考え方もあるし、「いや、知らなくても何とかなる、偉い人が制度設計してくれる」という考えもあります。悲惨な事件・事故などは、すごく関心が高いことがありますし、新聞やテレビも大きく取り上げますが、一般市民として、本当にそれを知っておくべきとは、一概には言えないのではないかと思います。

<生貝>一番いい政治は、存在を感じさせない政治とも言われています。政治を意識せずに生きていければ幸せだという人はいますよね。公共性を知ることが成熟なのか、それとも知らないことが成熟なのでしょうか。

<山口>別の質問ですが、Yahoo!ニュースは、他のウェブニュースのプラットフォームと比較をしているのでしょうか。また、編集方針を比べたことはありますか。Yahoo!と他のサイトの編集方針の違いによって、ニュースへの関心は変わってくるものなのか、気になります。

<伊藤>色々なメディアを見ていて、ここがこういう取り上げ方をしている、というのは通常業務で情報交換していますが、定常的にはやってないですね。

<山口>Yahoo!の特定のビジネスのやり方に依存している部分は、どのくらいあるのでしょうか。

<伊藤>トップに掲出されている時間が変わらないのであれば、読まれ方は他のメディアと変わらないというのが私の印象です。

<生貝>メディアや経済学を研究している人間からすると、コンテンツの内容はどうやって決まるのかを考えたいです。1つはノーマティブ(規範的)な部分で、こういうことが読まれるべき、聞かれるべきというものです。もう1つは競争の中にあるポジショニングの戦略です。みんなが同じ時間にキムタクのドラマをやっても見ません。それを見越して12チャンネル(テレビ東京系)は裏で経済番組をやるといったような場合があります。どちらのメカニズムがコンテンツの内容を決定づけているのか、という問題意識があります。

<藤代>Yahoo!はインターネット界の巨人だから、ポジショニングの話ではないと思います。編集方針としてバランスを取ろうとしているのは、どういう意図からですか。

<伊藤>インターネットで情報を摂取する人たちが増えているとされていて、ニュースは(新聞やテレビではなく)Yahoo!ニュースしか見ない人もいます。その中でYahoo!ニュースがアクセス至上主義に走って、アクセスのいいものだけを出し続けると、世の中に伝えるべきものが伝わらなくなってしまいます。そうした社会の損失になることは避けたいのです。アクセスがそれほど伸びなくても、社会で重要性の高いもの、公共性が高いものは出していこうという方針があります。

配信側が狙う「Yahoo!トピックス最適化」

<亀松>僕は「弁護士ドットコム」というネットメディアでニュース記事の編集に関わっています。弁護士ドットコムは、主だったポータルサイトに配信していますが、それぞれのポータルサイトは傾向が大きく違います。イメージとしては、Yahoo!ニュースは「ネットのNHK」です。公共性を意識しながら、バランスよくやろうとしています。その他のサイトはPVが圧倒的に少なくて、Yahoo!ニュースとは相当の差があります。

 Yahoo!は、影響力も社会的責任も大きいと言えます。また、大きな要素として、伊藤さんもですが、編集部に元新聞社、通信社出身の方が多く、新聞的な価値観がベースになっていると言えます。これが例えばmixiになると全然違っていて、ニュースのコーナーでも恋愛コラムがよく読まれています。ライブドアニュースはYahoo!にないものをやろうとしています。どちらかというと、ネットギーク(マニア)に受けるようなネタとか、エログロ的なものをあえて意識してやっています。

<藤代>亀松さんはポータルサイトに記事を出す時に、どう使い分けているのですか。

<亀松>色々なタイプの記事を出して、それぞれのポータルサイトにとって都合のいいものをとりあげてもらえばいい、と思っています。ただ、実際はYahoo!ニュースが相当なPVを持っているので、Yahoo!トピックスで取り上げられるような記事を配信することを優先的に意識しています。「Yahoo!最適化」みたいな状態ですね。

 具体的には、Yahoo!では公共性の高いニュースが求められるので、そうしたテーマを重視しています。Yahoo!は、先ほど出てきたマイナンバー法案のニュースのように、社会性の高いものが多い傾向があります。弁護士ドットコムの本体でも、読まれている記事のランキングを出していますが、そこではYahoo!と全然違う傾向が見えてきます。「キスフレ作りは不倫?」などと、Yahoo!トピックスでは取り上げられないようなものがうけたりしています。

<一戸>公共性の追求が可能なのは、一強のYahoo!と、その他大勢だからなのでしょうか。それとも単純に、ストイックな(禁欲的)編集方針を選んでいるからなのでしょうか。

<亀松>Yahoo!ニュースがこれだけの存在感を維持している要因は、公共性がある記事をそれなりのバランスをとって載せているからだと思います。mixiやライブドアニュースのようにすると瞬間的にはPVが上がるかもしれませんが、一般の人がマスメディアに期待しているのは、そういうものではないでのはないかと感じます。つまり、Yahoo!ニュースはネットメディアでありつつも、マスメディア的なスタンスをとっているといえます。

<一戸>長期的にはストイックなやり方の方がいいということですか。

<亀松>少なくともYahoo!は、結果的に成功しています。情報が極限まで凝縮されたYahoo!のトップページに掲載されるトピックスを見るだけでも価値があります。新聞の1面の見出しだけを見ても、それなりにインプットの効果があるのと同じです。記事をクリックして読まない人も、例えばトピックスの見出しにある「マイナンバー」という言葉は目にしています。

<伊藤>Yahoo!ニュースが政治に関する知識の学習に効果的という研究成果もあります。Yahoo!ニュースを見る人ほど、小テストの回答率が高かったのです。政治のニュース本文をクリックしていなくても、何回か眼にしていれば、だいたいの内容が分かるようになるようです。

<木村>Yahoo!トピックスを編集する側として、そういう意識で見出しをつけていますか。つまり、見出しをみればわかるようにつけているのか、それともクリックしてもらいたいと思ってつけているのか。両者では見出しの作り方がまったく違うと思います。

<伊藤>運営側としては、見出し1本13文字というのは圧倒的に文字数が少ないのですが、その中で事実関係が伝わるものにしようとしています。できる限り、見出しだけで事象が伝わるようにしたい。

<亀松>見出しの付け方でも、Yahoo!と他のポータルサイトでは違いますね。他のポータルサイトはクリックしないと分からないことが多いし、ちら見せが多い。(無料広告モデルで食べているケースが多いので)ニュースを出稿する側としては、どちらかといえば、なるべく多くの人にクリックしてほしいと思っています。

<生貝>参考までに、Yahoo!のPVに占めるニュースの割合はどれくらいでしょうか。

<伊藤>10%ほどです。

<五十嵐>昔はみなさん、新聞でニュースを知っていたはずです。新聞でニュースを見たうえで、その後Yahoo!にアクセスしたとすると、既に読んでいるものはクリックしないと思います。となると、新聞のトップ記事がYahoo!でもクリックされるのであれば、新聞を読んでない層がニュースを見に来ているということではないでしょうか。

<藤代>既存マスメディアに報じられている記事であれば、まあ、もう載せなくてもいいのではないか、という意見でしょうか。それとも、Yahoo!はそうしたトップ記事を落としてはいけない、ということでしょうか。

<伊藤>Yahoo!としては、落とさないようにしたいという感覚です。

<一戸>公共性の中には、既存マスメディアのような考え方も入っているのですか。

<伊藤>もちろん、記事を配信していただいているのが新聞社、通信社中心ですので、複数の媒体社さんが出しているのに、Yahoo!が記事を載せない、ということはないですね。新聞社・通信社とYahoo!とでは、著しく考え方が乖離することはないです。

「公共」はもうかるのか

<生貝>亀松さんもご指摘のようにが、Yahoo!はNHKの役割を果たしていると言えます。ただ、現実的に「公共」って、もうからないはずです。だから公共放送や公益性の高い報道をどう維持するのか、という問題が各国で議論になっています。日本やイギリスのように公共放送局を作ったり、アメリカのようにNPOがやったりするケースがあります。

 ネットの上での「公共」というのはどういうものなのでしょうか。あるいは、具体的にNHKと自分たちの違いはなんでしょうか。もうかるビジネスは「公共」ではないでしょう。「公共」は、本当はもうからないはずです。今まさにNHKに関しては、放送法のあり方について、微妙な制限のあるネット事業の拡大が大きな議論になっています。それに対して、どう考えていますか。

<藤代>「公共はもうからないのか」という議論は興味深いですね。逆に、Yahoo!がもうかっているとすると、その理由は何でしょうか。

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