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竹田津実写真集『アフリカ』はすごい!

鷲尾賢也 鷲尾賢也(評論家)

 新聞書評に写真集はほとんど取り上げられない。写真は文章にあらわすのがむずかしいからだ。また、絵画と同じように、展覧会でみるという通念があるのかもしれない。でもこの竹田津実(たけたづ・みのる)写真集『アフリカ――いのちの旅の物語』(平凡社)はすごい本だ。ぜひ見てほしい。写真の一枚一枚にこころ動かされる。

竹田津実さん拡大竹田津実さん
 アフリカに詳しくないので、はっきりしたことはいえないが、特別に珍しい動植物や草花が撮られているわけではないようだ。

 多くはヌーやゾウ、キリンやライオン、シマウマ、チータ、カバなどのアフリカの動物である。あるいはバオバブの樹だったり、マサイ族や草原にたつ虹だったりする。アフリカでよく目にする対象なのかもしれない。

 しかし、じわーとした温かさが伝わってくる。動物たちの生と死、日々の表情にほっとしたものが湧きあがってくる。こころが洗われる(平凡な表現しかできないのがつらい)。

 一本の木の下で一頭のライオンが休息をとっている写真がある。木の影が草原に細長くよこたわり、遠くにはかすかな丘と地平線が見える。ただそれだけのショットだが、草原の空気がゆったりと吹いてくるようだ。

 そのとなりの写真は、樹上での枝にまたがってヒョウが休んでいる。動物の手足や体つき、皮膚の色やしなやかさはそれぞれが個性的だ。獲物を狙っているときの顔つき。親子で遊んでいる穏やかさ。眼をとじて彼方を眺めている夕べ。アフリカの空気がにおう。

 ヌーの出産風景が撮られている。発情期が同じなので、出産も一緒なのだそうだ。広い草原のあちらこちらで、みな出産する。そして30分もすると、子どもは立ちあがり親子は旅支度を始める。いとなみの厳粛な継承である。

 「シマウマは遊び、ヌーが暴走、インパラはジャンプし、ガゼルは駆けぬける。その都度、表土は破砕、反転される。蹄はトラクターの爪と同じ役割をはたしている。そして毎日のウンチとオシッコ。トラクターの堆肥や尿の散布と同じである。自分たちの食べるものは自分たち育てるで。お百姓さんだ。エライ!!とシマウマの群れに声をかけていた」

 アフリカに30回以上も通い、

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筆者

鷲尾賢也

鷲尾賢也(わしお・けんや) 鷲尾賢也(評論家)

1944年、東京生まれ。評論家。慶応義塾大学経済学部卒業。講談社入社。講談社現代新書編集長、学芸局長、取締役などを歴任。現代新書編集のほか、「選書メチエ」創刊をはじめ「現代思想の冒険者たち」「日本の歴史」など多くの書籍シリーズ企画を立ち上げる。退社後、出版・編集関係の評論活動に従事。著書に、『編集とはどのような仕事なのか――企画発想から人間交際まで』(トランスビュー)など。なお、歌人・小高賢はもう一つの顔である。小高賢の著書として『老いの歌――新しく生きる時間へ』(岩波新書)など。2014年2月10日、死去。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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