2013年11月30日
先日、東京・神保町シアターで始まった小津安二郎特集の初日に行って驚いた。土曜の11時からの『一人息子』(1936)の回がほぼ満席で、若者が目立ったことだ。支配人の佐藤菜穂子さんによれば、「これまで後期の有名な作品は若者も来たが、戦前の作品でこれほど来るとは」。
小津は現代の若者に受けるのか。
今回の神保町シアターの企画「映画監督 小津安二郎」は現存する37本すべてを上映するもので、目玉は何と言っても、『東京物語』を始めとして、『秋刀魚の味』『彼岸花』『秋日和』『お早よう』のデジタル修復版の上映だ。
現在販売中の『東京物語』のブルーレイを見れば、今回の修復版がいかに革命的かよくわかる。オリジナルネガが失われたこの作品は上映プリントの状態が悪く、東京の息子の家で片隅に写る蚊取り線香の煙なんて今回初めて見えた。
生誕100年の時は、松竹は全作品のDVDボックス4巻を販売した。確か1巻が2万5000円前後だったが、松竹によれば4巻で3万5000セット以上売れたというから、相当のヒット作品だ。7月から販売しているデジタル修復版『東京物語』のブルーレイとDVDはもう6000枚が売れたという。これから『秋刀魚の味』などもデジタル修復版が発売される。さらに『晩春』は、完全4Kによる修復作業が始まるという。
つまり、松竹は生誕100年にDVDを発売し、生誕110年、没後50年に修復版ブルーレイを売り、それに合わせて全作品上映をしているのであり(100年の時はフィルムセンターが会場)、小津ブームと言っても、記念の年に合わせて松竹がパッケージのフォーマットを変えて販売し、全作品を上映しているだけと言えないこともない。
中を見ると写真家のホンマタカシが多摩川土手で撮った写真だとわかるが、このパロディぶりはなんだ。中のページには、モデルが着ている服のブランド名や値段まで書かれている!
雑誌ならまだいい。東京国立近代美術館フィルムセンターで12月12日から始まる展覧会「小津安二郎の図像学」も副題は「永遠のウルトラモダン」だし、チラシも赤や青を使った軽やかなデザインだ。
小津生誕100年を担当し、今回の110年にも携わっている松竹の藤井宏美さんは、神保町シアターの若者を見て「今回の目標は若い世代の小津ファンを増やすことだったので嬉しい。『BRUTUS』」の特集が効いたかな」と語っていた。
大学で映画を教えている私の感触から言っても、小津は黒澤明や溝口健二に比べて今の若者に確実にウケる。
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