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[16]第2章 演劇篇(8)

「エロ取締規則」

香取俊介 脚本家、ノンフィクション作家

あまりの人気に当局は取り締まり強化へ

 カジノ・フォーリーではこんな歌を踊り子が客席にウインクしながら歌って踊った。

  ア、ピョイ
  指をもちゃげて
  チョ、チョ、シイ、シイ
  さあさあ、おいでおいで
  チョ、チョ、チョ、チョ
  ちっともためらわないで
  チョ、チョ、シイ、シイ
  さあさあおいでおいで

 当時の観客にとっては極めてエロチックで、学生や若い労働者が強くひきつけられた。各館ともカジノ・フォーリーに対抗して、さらにエロ味濃厚な「レビュー」で客寄せをするようになった。そのため、学校をさぼって浅草にレビューを見に行く学生も多く、所轄署ではエロに興味をもつのは「不良のはじまり」とばかり、しばしばレビュー劇場に踏み込み若者を検束した。

 1930(昭和5)年7月18日、朝日新聞は「レビューに巣食う男女 やぶ入りに80余名を検挙」という見出しのもと、次のような記事を掲載した。

 「警視庁刑事部不良少年係では例年の通りやぶ入り当日の15、6日の両日の浅草公園に集まる不良連の取り締まりを行った。その網にかかったもの本郷区森川町4の1某大学生田中某(25)外男57名、女29名であるが、男は商店員とか小僧さんは案外すくなく不良学生が大部分であって女はほとんどカフェー女給である。今年の新しい現象として不良のいりこむところは活動館からレビューに移りエロをあさる軟派ものばかりであるのに係官もあきれている。
 一方不良係りではレビュー・ガールが盛んに風紀を乱し演出も殊更に挑発的なものばかりをやるので断然取締をやることになり古川保安部長等も六区レビュー館の実情調査をやったが、そのうちかなり極端な裏面もあり刑事、保安両部は協力してこれが取締を開始することになった。
 所轄の象潟署では、次の八ヵ条の取り締まり規則をレビュー団に通達した。
1、股下三寸未満、あるいは肉色のズロースの使用すべからず
2、背部は上体の二分の一以上を露出すべからず
3、胸部は乳房以下を露出すべからず
4、片方の脚といえども、股下近くまで肉体を露出せざること
5、照明にて腰部の着衣を挑発的に照射すべからず
6、腰部を前後左右に振る所作は厳禁す
7、客席に向い脚を上げ、ふとももが継続的に観客に見ゆる所作をなすべからず
8、「静物」と称し全身に肉じゅばんを着し、肉体の曲線を連想させる演出は厳禁する」

 微に入り細に入りの作文である。これではカジノ・フォーリーの特色を出せないと関係者は憤慨したが、当局の通達に逆らうわけにいかない。もっともカジノの場合、実態は「世評」や「噂」ほどのエロではなく、新聞や雑誌等の誇張がある。

事前検閲をレビューなどにも適用

 さらに、エノケンがカジノを脱退してから4カ月後の昭和5年11月14日、警視庁は通称「エロ取締規則」(「各種興業の取締に関する件依命通牒」)を発令した。 ・・・ログインして読む
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筆者

香取俊介

香取俊介(かとり・しゅんすけ) 脚本家、ノンフィクション作家

1942年、東京生まれ。東京外語大学ロシア科卒。NHKをへて脚本家、ノンフィクション作家に。「異文化摩擦」と「昭和」がメインテーマ。ドラマ作品に「私生活」(NHK)、「山河燃ゆ」(NHK・共同脚本)、「静寂の声」(テレビ朝日系)。ノンフィクション作品に『マッカーサーが探した男』(双葉社)、『もうひとつの昭和』(講談社)、『今村昌平伝説』(河出書房新社)など。