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【2013年 本 ベスト5】 読み応えのある本は少なかったが……

鷲尾賢也 鷲尾賢也(評論家)

 日版(日本出版販売)やアマゾンから、2013年度の年間ベストセラーが発表された。村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)や百田尚樹『永遠の0』(講談社)などは予想通りだ。その他、池井戸潤の「半沢直樹」もの、例えば『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社)も上位である。

 しかし、2012年に話題になった阿川佐和子『聞く力――心をひらく35のヒント』(文春新書)がいまだベストテンに残っているところをみると、今年も書籍業界は青息吐息だったのだろう。

 数字だけではない。読み応えのある本がどのくらい刊行されたのか。それすら怪しい。どうも、私の読書範囲の人文学芸書や社会批評、ノンフィクションにかぎったことではないようだ。

 他のアンケートでも挙げたのだが、私の一押しノンフィクションは、堀川惠子『永山則夫――封印された鑑定記録』(岩波書店)である。

 鑑定を担当した精神科医に遺されていた100時間を超えるテープをもとに、もう一度永山則夫の深層に迫った力作。「貧困と無知」だけに負わせられない家族の問題。とりわけ母親の幼少期や永山の兄弟との関係。近代日本の闇というべき領域まで錘を下ろした迫真のドキュメント。もっと多くの人に読んでもらいたい一冊だ。永山則夫という名もすでに忘れ去られている現実。それでいいのだろうか。そんなはずはない。

 人文書で指を折るのは白井聡『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版)。敗戦を「終戦」と言いかえる欺瞞から始まった戦後。「対米従属」というねじれたものと憲法の使い分け。それは「想定外」と言い張った3・11原発事故へと続いている。尖閣や竹島、北方領土問題まで、現実と真向かうことから始めようという勢いのいい議論には説得力があった。論壇でもっと議論になってもいいと思った。

 原発事故関係の書籍も数多く出た。

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