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【2013年 映画 ベスト5】 「内容」ではなく「演出」で選んだベスト

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

■『リアル~完全なる首長竜の日~』(黒沢清)
 現実も非現実も、映像化されれば皆“リアル”という大胆な着想のもと、綾瀬はるか、佐藤健、中谷美紀らから、最良の演技――感情の押し売りにならない反=TVドラマ的な――を引き出した黒沢清の天才ぶりに、ただただ驚嘆する。

 また、内面を欠いた“フィロソフィカル・ゾンビ”の不気味さにも、水しぶきをまき散らして出現する首長竜のCGにも驚愕。さらに、各場面、各ショットがダイナミックに連鎖反応してゆく語りの至芸はどうだろう。ダントツの本年度ベストワンである(2013/06/14、06/18、06/20、06/21の本欄「『傑作』という言葉さえ無力化する、前人未到の“脳内ラブストーリー”――黒沢清『リアル~完全なる首長竜の日~』参照)。

 なお綾瀬はるかは、今年の紅白歌合戦・紅組の司会だが、赤いドレスを着た彼女の姿は、まさしく黒沢清的な<幽霊>――たとえば『叫』のゴースト――のイメージそのものではないか。

■『ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン)
 少年、少女の駆け落ちをポップに描いた絶品。正面ショット、カメラの横/前進/後退移動による精妙な画面構成は、ウェス・アンダーソンを21世紀アメリカの小津安二郎たらしめている。また、登場人物たちの無表情は、ジャン=リュック・ゴダールの映画や、1970年前後のクロード・シャブロルの映画を想わせる(2013/02/11、02/12の本欄「ウェス・アンダーソンの新作、『ムーンライズ・キングダム』は素晴らしい!」参照)。

■『ぼっちゃん』(大森立嗣)
 秋葉原無差別殺傷事件をモチーフ(創作の動機)にした怪傑作。 “ブサイク”という過剰な自意識にとりつかれた非正規社員の主人公(水澤紳吾)のつぶやきを、携帯画面の字幕化などによって描くアイデアが冴えまくる。また、彼と宇野祥平(“最弱の二人”!)の巻き起こす珍騒動が可笑しくも切ない。そして、それらのドラマの背後には、非正規社員の置かれた理不尽な現実が灰色の壁のように広がっている(2013/03/16、03/19、03/20の本欄「大森立嗣の『ぼっちゃん』は凄すぎる! 秋葉原事件をモチーフにした怪物的な傑作」参照)。

 なお、本作の“魂”を受け継いだかのような大木萠の第1回監督作品、『花火思想』(傑作!)が2014年1月25日より東京・渋谷のユーロスペースで公開される。必見!

■『共喰い』(青山真治)
 『リアル』同様、原作小説をどう映画の側にたぐり寄せるかを、お手本のように示した逸品。“血と性と暴力”という重量級のテーマに真っ向から挑みつつ、過度のシリアスさを画面から排した青山真治の力量とセンスに感服。反=ポルノ的な性描写や、ロケ地の空間的特徴を巧みにとらえるカメラも秀逸(2013/10/04、10/07の本欄「青山真治『共喰い』の端正な魅力」参照)。

■『桜並木の満開の下に』(舩橋淳)
 事故によって夫を失ったヒロインと、事故を起こした男との恋愛を描くという、これまた難易度の高いメロドラマを、舩橋淳は繊細な感情描写と画(え)づくりによって見事に撮り上げた。本作は成瀬巳喜男の美しい遺作、『乱れ雲』(1967)の独創的な換骨奪胎でもある(2013/04/11、04/12の本欄「現代的なメロドラマ・サスペンスの傑作――舩橋淳『桜並木の満開の下に』」参照)。

+アルファ
■『女っ気なし』(ギヨーム・ブラック)
 寂(さび)れた北フランスの観光地オルトを舞台に、冴えない風貌の主人公と、パリからやって来た美しい母娘が、愉快で切ないロマンスを繰りひろげる快傑作。その土地のローカルカラーないしは気候風土を、つぶさにカメラに写し込むブラックの才能にも一驚(2013/11/26の本欄「必見!フランスの新鋭ギヨーム・ブラックの『女っ気なし』――“散文的な詩情”あふれる快傑作」参照)。

<番外編>
*予想以上に面白かった映画

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