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必見! ナチ残党狩りを描くオーソン・ウェルズの『謎のストレンジャー』(上)――“反=ナチ・娯楽映画”の傑作

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 東京のシネマヴェーラ渋谷で、恒例の「映画史上の名作」シリーズが始まっている。いつもながら、ラインナップはどれも必見作ばかりだが(すみません、もう後半に突入してます)、まだ間に合う上映作品の目玉中の目玉は、オーソン・ウェルズ自作自演の『謎のストレンジャー』(1946、製作RKO、DVDタイトル:『オーソン・ウェルズINストレンジャー』)。

 文字どおり手に汗握る、エンタメ度全開の傑作スリラー映画である。なにせ、一見平和なアメリカのスモール・タウンに潜伏しているナチの残党をめぐるサスペンス映画を、「あの」オーソン・ウェルズが監督し、ナチ戦犯役を彼自身が演じているとなれば、面白くないわけがない(オーソン・ウェルズという“呪われた天才”については後述)。

<あらすじ&若干のコメント(以下、ネタバレあり):ナチの残党を追う連合国戦犯聴聞委員会は、元強制収容所所長の小男マイネック(コンスタンティン・シェイン)を、「泳がす」ために釈放する(「泳がす」とは、表面上は自由にさせながら、その行動をひそかに監視すること)。その目的は、アメリカに潜入しナチ再興を目論んでいる、元ドイツ軍将校フランツ・キンドラ(オーソン・ウェルズ)を逮捕することだが、彼は強制収容所でのユダヤ人大量虐殺計画の張本人だった。

 ナチの残党狩りに執念を燃やす、戦犯聴聞委員会の捜査官ウィルソン(エドワード・G ・ロビンソン)は、囮(おとり)として釈放されたマイネックを監視するが、その小男の向かったのは、コネチカット州のスモール・タウンだった。その町でキンドラは偽名チャールズ・ランキンを名乗り、男子高校の歴史教師に赴任しており、町の判事の美しい娘メアリー(ロレッタ・ヤング)と婚約していた(中盤で結婚)。キンドラにとっては、高校教師の職もメリーとの婚約・結婚も、ナチ再興計画のための“隠れみの”にすぎなかった。

 ウィルソンは、町のドラッグ・ストアー――いわば地域共同体の要(かなめ)で、さまざまな情報が集まる場所――の店主ポッター(ビリー・ハウス)と親しくなり、聞き込みを行なう(ポッターが陽気なチェス好きで、ウィルソンをチェスで負かすが、並はずれた頭脳を持つキンドラには勝てない、といったディテールも見事)。ウィルソンは必死に捜査を続けるが、教師チャールズ・ランキンがキンドラであることを、なかなか見抜けない。

 いっぽう、キンドラと接触したマイネックは、もうナチ再興など無意味、戦争は何も生み出さないと言い、“戦線離脱”することをキンドラに告げる。となればむろん、狂信的なナチ・エリートのキンドラにとって、自分の正体を知っているマイネックはもはや邪魔者でしかない。よってキンドラは森の中でマイネックを絞殺し、その場で彼の死体を埋める(身長190センチのキンドラ/オーソン・ウェルズと、哀れな末路をたどる小男マイネックのコントラストの妙!)。

 その後もキンドラは、マイネックの死体が埋められた場所を嗅ぎつけた、メアリーの弟ノア(リチャード・ロング)の愛犬レッドを毒殺し、周到に正体を隠しつづけ、何食わぬ顔でメアリーと結婚する……。

 が、妻となったメアリーは、やがて夫の正体を知り、 ・・・ログインして読む
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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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