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コメント編集で「良質」を目指すザ・ハフィントン・ポスト――連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」から(13)

情報ネットワーク法学会

 アメリカのネットメディア、ザ・ハフィントン・ポストの日本版がスタートして半年以上が経過した。2ちゃんねるに代表されるように、匿名でネガティブなやりとりも多い日本のインターネットの世界で、コメント欄を編集しながらポジティブな議論を促すやり方は通用するのか。日本版編集長の松浦茂樹氏は、「ニュースを発信するだけでなく、ユーザーに考えて、発信していただくことがゴール」と語っている。(構成:新志有裕)

ニューヨーク・タイムズを抜いて全米ナンバーワン

<松浦>まずは、ザ・ハフィントン・ポストについて説明させていただきます。ハフィントン・ポストは、(ジャーナリストでコラムニストの)アリアナ・ハフィントンがアメリカで始めたメディアで、2013年5月7日に日本版が誕生しました。

ザ・ハフィントン・ポスト日本版の松浦茂樹編集長ザ・ハフィントン・ポスト日本版の松浦茂樹編集長
 私の経歴は、元ライブドア、ワイアード、グリーで、基本的にネットメディア育ちです。ライブドアに入ったのは2004年で、最初はEC(電子商取引)を担当していたのですが、2006年ごろから、(ポータルサイトとしての)ライブドア全般に関わるようになり、ライブドアニュース、ブロゴス、テックウェーブ、マーケットハックなど、ライブドアの下でやっているメディアを担当しました。

 2011年にワイアードに移りまして、ワイアード日本版の再立ち上げを1年弱、お手伝いしまして、その後グリーでグリーニュースを中心に非ゲームの領域を1年間担当しました。そして、2012年末にお声がけを頂きまして、2013年3月から、ザ・ハフィントン・ポスト日本版の編集長に就任しました。

 ハフィントン・ポストの歴史ですが、2005年5月に設立されて、2014年で9年になります。2008年のアメリカ大統領選でアクセスを集め、2011年、AOLが3億ドルで買収し、(5月の月間ユニークユーザー数が)ニューヨーク・タイムズを抜いて全米ナンバーワンになりました。2012年の大統領選でも大きくアクセスを伸ばして、ピュリッツァー賞を受賞し、オンラインメディアとしても、既存のメディアと肩を並べるようになりました。

 ハフィントン・ポストの規模を、グローバルで見ると、1日あたり1600本以上の記事が出ています。500人のレポーターと編集者がいて、3万人を超えるブロガーさんがいます。イギリス、カナダ、フランス、スペイン、イタリアと展開して、日本でもスタートしました。その後、マグリブ(北アフリカ)版とドイツ版も加わっています。

 イギリスとカナダは英語圏なのですが、英語圏以外の国は、基本的に現地のローカルメディアと組む形でやっています。日本では朝日新聞さんと組みました。ローカルメディアが各国それぞれの編集領域に手を入れて変えることはありません。日本でも、編集方針は私に一任されています。そして、朝日新聞さんの編集方針にも全く関わらない形で編集しております。

ソーシャルパワーで差別化図る

 ハフィントン・ポストが他のメディアと違う部分があるとすれば、ソーシャルパワーだと思います。媒体としてフェイスブック上で最もシェアされるコンテンツになっているなど、ソーシャルパワーを展開する仕掛けをたくさん持っています。日本でもこの1カ月で、ツイッターのフォロワーが1万4000人、フェイスブックが1万2000人になりました。このように、ソーシャルで人を集めやすい仕組みが大きな特徴です。また、日本版では、日本独自のネット文化との親和性を高めるために、はてなブックマークさんとも協力する形で進行しています。

ザ・ハフィントン・ポスト日本版ザ・ハフィントン・ポスト日本版
 また、コメント空間の編集にも取り組んでいます。ライターを集めてコンテンツの質だけを追求する形よりも、ユーザー、読者がコメントを投稿しあえる空間を作るのが我々の大きなポイントです。

 アメリカでは、コメントはおよそ月間30万件です。重複や誤投稿、中傷などを機械的、人為的にカットするなどして、20万件になっています。ネガティブなコメントではなく、ポジティブなコメントによって、議論を前に進めるというのが基本方針です。日本でも同様の形でコメント空間を管理していて、他国より少し厳しめかな、という水準で空間編集しています。

 ハフィントン・ポスト、いよいよ日本に上陸! ということが公になった際に、さまざまなニュースサイトやブログメディアなどで、色々な言われ方をしましたし、今でもそうなのですが、我々としては自分たちのことを「ソーシャルニュース」と言おうかなと思っています。

 2013年4月にニコニコ超会議で堀江貴文さんと対談した時に「ソーシャルニュースなんですよ」と言ったら、「わかんねえよ、そんなこと」って言われました。でも、ニュースサイトというと他との違いが出しづらくなる。ですので、ここは頑張って言い続けようかなと思っています。情報を起点にユーザー同士のコミュニケーションが発生する場作りをやっているということです。

 ライブドアとか、ワイアード、グリーと籍を置いてきた身からすると、ポータル系のニュースサイトは、個々のニュースを何らかの形でアグリゲーション(集約)してユーザーに伝えるというのが基本的なニュースサイトなのですが、我々は情報を伝えて、コメントによるユーザー同士のやり取りを促したい。それらを再度まとめて、ハフィントン・ポストで記事化したり、ブロガーが発信したりして、さらにコメントのやり取りがあって議論を深めるのが、ソーシャルニュースのポイントかなと思っています。

ターゲットは団塊ジュニア世代

 次に、コアターゲットの話をします。

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