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「イルカを残酷に殺すな」という主張には異議を唱えたいのだけど……

青木るえか エッセイスト

 大阪ミナミの道頓堀に『たこ梅』というおでん屋(関西なので“関東煮(かんとだき)屋”が正式呼称であるが)があった。

 というか今もたぶんあるのだが、私が食べに行ってた頃はカウンターの中に婆さんしかいなくて、田中康夫が『いまどき真っ当な料理店』の中で、遣り手婆あ軍団だとか毒づいていた。建物は年代物でいい感じに古びてたが、おでんは昭和30年代の給食みたいなアルミの皿に入って出された。『たこ梅』は、見た目や婆さんたちの愛想のなさの割にはやけに高くてめったに行けなかった。田中康夫はボロカスに言ってたけど私はここの「さえずり」は旨いと思った。鯨の舌である。

 豚の脂身の塊から脂を抜いたあとのスポンジのような……って、これじゃちっとも旨そうじゃないが、すごく旨いと感じた。しかしめったに食べられない。当時で確か、串に小さいかけらが3つぐらいささったやつが2本で700円。すげー高い(うちにとっては)。だからたまに食べに行っても、スシ屋のトロみたいなもんで夫婦で2本のみ、と決められた贅沢であった。

 まっ赤な染料で染めてある鯨ハム、あれも旨い。あのまっ赤と対比をなす分厚い脂肪の層。要はアブラ身好きなだけか。でもこれもめったに食べられなかった。高かったからである。

 なんで高いかといえばそりゃ、クジラを獲ることがあんまりできなくて、獲ったクジラが貴重品なので高くなるわけだ。小学校の給食にはクジラの竜田揚げの出た世代であるから、モトは安いもんだったというのはよく知っている。小学校時代だったら『たこ梅』のさえずりも山ほど食えたのだろうか。

 クジラがこう旨いのであるからイルカも旨いのではないだろうか。昔、どっかの水族館で大きなプールにイルカとクジラが一緒に入っていて、中に何頭も、口の突き出し方がイルカとクジラの中間みたいなやつがおり、きっとこれはイルカとクジラの混血だろうと思った。

 昭和40年代、遊園地系動物園で、レオポンとかライガーとか、猫科猛獣を混血させたりしていたことがあったが、あれが廃れたのはやはりムリがあったわけで(動物虐待ということでなくなったと記憶する)、その点、こんなにふつうに混血してるイルカとクジラにはムリはない、ということはものすごく種として近いにちがいない! だから味も同じように旨いはず! イルカって見るからにまずそうだが、ぜったい美味しい! などと勝手に考えている。……あの口の突き出し方が中間のヤツは混血でもなんでもなかったらどうしよう。

和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に描いた映画『ザ・コーヴ』拡大和歌山県太地町のイルカ漁を批判的に描いた映画『ザ・コーヴ』
 キャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使が「イルカの追い込み漁」について「そういう残酷な漁をするのは残念(大意)」とツイッターで述べた。

 これ聞いて怒ってる人がたくさんいる。和歌山県知事も怒ってたなあ(テレビで見た)。「まったくこれだからアメリカさんは」と嘲笑まじりの口調が感じ悪かったが、まあこういうことは今回に限らず言われまくってウンザリもしてるのであろう。

 クジラが高くなってあんなスポンジのクズみたいなさえずりが高値になったのも鯨ハムが高嶺の花になったのも、きっと美味しいはずのイルカが食べられないのも、このイルカやクジラの捕獲反対運動が影響しているとみる。

 ケネディさんも一国の大使であるからには、食文化のことなど当然承知の上での発言であって、「殺して食うのはしょうがないとしてああいう殺し方はチョットねえ……」ということをつぶやいたわけだ。イルカを追い詰めて叩き殺す。ヒドイじゃないのと。その言葉の裏に「残酷なことしやがってこの未開人」という気持ちがあるかないか、そこはわからない。とにかく「残酷に殺すな」ということ。

 このことについて私は異議を唱えたい。なら「苦痛を与えないように粛々と死んでいただくのならいいのか」。

 私は、この世でいちばん気持ちの悪い殺人は ・・・ログインして読む
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筆者

青木るえか

青木るえか(あおき・るえか) エッセイスト

1962年、東京生まれ東京育ち。エッセイスト。女子美術大学卒業。25歳から2年に1回引っ越しをする人生となる。現在は福岡在住。広島で出会ったホルモン天ぷらに耽溺中。とくに血肝のファン。著書に『定年がやってくる――妻の本音と夫の心得』(ちくま新書)、『主婦でスミマセン』(角川文庫)、『猫の品格』(文春新書)、『OSKを見にいけ!』(青弓社)など。

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