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何でもありの日本の食文化を狭めるな――フォアグラ弁当発売中止問題

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 私はフォアグラが大好きだ。日本でもフランス料理店でフォアグラのメニューがあると、すぐ頼んでしまう。銀座に行くと、京橋に最近できた東京スクエアガーデンにある「レ・ロジェ」に行きたくなる。ここは店名に「ビストロ・ド・ロア」(=仏語でガチョウのビストロ)と名前を付けたくらい、フォアグラ料理にこだわっている。サラダやステーキ、茶碗蒸し状のものなど、新鮮なフォアグラ料理が何種類もあって、ここはどこの国かと思う。

 そのフォアグラが、最近話題になっている。ファミリーマートが「フォアグラ弁当」と称してハンバーグの上にフォアグラのパテを乗せて税込み690円で売るはずだったのが、中止になったという。数日前、その内容の読売新聞ニュースをヤフーのサイトで見た時、いやーな気持ちになった。おいしいものは何でも受け入れる、寛容な日本の食文化と違うものを感じた。

 別に食べたかったわけではない。690円の弁当に乗っているフォアグラなんて、切手のように薄いだろう。それでも私が好きなフォアグラが、こんな形で広まるのはいいなと思った。そう言えば、この冬、ファミレスのジョナサンでは、目玉としてフォアグラを乗せたステーキやハンバーグを出していた。つい先日まで店頭にそののぼりがはためいていたが、ファミマが販売を中止したら、いつの間にかのぼりが「カキコレ」に代わっていた。

 フォアグラをステーキの上に乗せるのは、実はフランスではあまり見かけない。美食家はフォアグラそのものを味わうから。これはたぶんアメリカ経由で世界的に広がった、よくある「フランス風の小さな贅沢」だろう。

 フォアグラが、一部の国で動物愛護の観点から非難されていることは、私だって知っている。確かにガチョウにトウモロコシなどを無理やり食べさせて、大きくなった肝臓を食べるというのは野蛮な感じはする。だけど私はおいしいと思う。

 最近、ケネディ駐日米国大使が、イルカの追い込み漁が非人道的だとツイッターに書いたことが話題になった。WEBRONZAでは佐藤優氏青木るえか氏がそれぞれ全く違う立場から、これに安倍首相が真面目に反論することの愚を説いている。

 今回の問題も似たところがある。動物愛護団体が、フォアグラ弁当に対して抗議をした時に、過剰に反応することは誰のためにもならない。読売新聞によれば、ファミマに対して22件の抗議があったという。いろいろな考えの人がいて当然だから、抗議があっても別に不思議ではない。

 しかしこの程度の抗議ですぐに販売を中止することが企業のリスクヘッジとして広がるのは、あまりにも情けない。抗議したもの勝ちになってしまう。特にネットでは悪意が広がりやすいから、今後も増えるのではないか。

 イルカもクジラもフォアグラも食文化の問題だ。だからこれは是非を議論してもしょうがない。多くの日本人は、カタツムリや蛙を食べるフランス人も猿の脳味噌を食べる中国人も信じられないが、しょうがない。人間が生きてゆく限り殺生は逃れられないが、感覚的にダメなものはダメだ。金持ちお嬢さんのケネディ大使は、自分の感覚に素直に反応したのだろうし、当然それが米国の支持を得ることくらいわかっているはずだ。

 問題はこれに対して、 ・・・ログインして読む
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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

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