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炎上に頼らない、ネット論壇の議論活性化策――連続討議「ソーシャルメディア社会における情報流通と制度設計」から(14)

情報ネットワーク法学会

 閑歳孝子氏(Zaim)がザ・ハフィントン・ポスト日本版の2013年5~6月分をソーシャル解析してみたところ、最もコメントの多かった記事は「日本人は、なぜ議論できないのか」の154件だった。日本のソーシャルメディアは誹謗中傷の荒らしで議論が成立しにくく、逆にアクセスを稼ぐための「炎上」を狙うメディアもある。ハフィントン・ポスト日本版の松浦茂樹編集長は「炎上」ではなく「良質」で「ポジティブ」な議論が行える場づくりを目指しているという。(構成:新志有裕)

「日本人は、なぜ議論できないのか」に最多コメント

<閑歳>松浦編集長の発表を受けて、最初のコメントをしてみます。まずは、ハフィントン・ポスト日本版の立ち上げから2カ月間のアクセスをソーシャル解析してみました。コメント数1位は、先ほどのプレゼンにもあった「日本人は、なぜ議論できないのか」が圧倒的に多くて154件でした。フェイスブックの「いいね!」でみると、モザンビークの人々から安倍首相に手渡された公開書簡に関する記事が圧倒的に多くて2万6300件。ツイッターでは、境真良さんの児童ポルノ禁止法問題の記事が539件。はてなブックマークでは、憲法に「家族の助けあい」を入れるべきかという記事が237件、という感じでそれぞれトップが違っています。

ザ・ハフィントン・ポスト日本版のソーシャル解析拡大ザ・ハフィントン・ポスト日本版のソーシャル解析
 フェイスブック、ツイッター、はてなブックマークの反応を合計するとおよそ20万件だったのですが、全記事534件中の50件への反応が10万件を占めていますので、やはり上位10%の記事が半分以上の反応を稼いでいるのか、というのが第一印象です。

 コメントがまったくつかない記事はあまり多くなくて、記事1本あたりの平均コメント数は16件となりました。

 もう少し細かくみると、フェイスブックでは反応があるのにコメントが全然ない記事もあり、一方では、コメントがあるのにフェイスブックではあまり反応ないといった記事もあるため、これ以上は明確な傾向はあまり出ていないようなのですが、ランキングをみると、問題提起型の記事に反応がたくさんついているようです。

<藤代>個人的に印象に残ったのは、フェイスブックで「いいね!」を集めたモザンビークの記事です。私のフェイスブックの友人にもこの記事をシェアしている人がいて、ハフィントン・ポストがもしうまくいくとしたら、こういう切り口の記事なのではないかと思っていました。

 執筆者は貧困撲滅の国際団体オックスファーム・ジャパンの方で、日本の貧困支援のあり方に疑問を投げかける内容でした。このような硬派でマイナーな話題はヤフーニュースでは出しにくいでしょうね。

<伊藤>出しにくいというわけではないのですが、そう簡単に数字はとれないでしょうね。

<藤代>このような記事が読まれ、拡散するのだとしたらハフィントン・ポスト日本版にも可能性があるのではないかと思います。また、舛添さんの記事(「舛添氏は、何を日本に残したか?」)もそうですが、議論を呼ぶような政治ネタというジャンルはある意味で、本家のハフポっぽいものだと思いますが、あまり多くない印象があります。なぜでしょうか。

<松浦>日米、あるいはツイッターやフェイスブックなど、それぞれのソーシャルメディアの特性を考慮したところもあります。フェイスブックは一般に、例えば感動系に強いと思います。がんがん議論したいのではなく、ごく自然に人の心に刺さるコンテンツが拡散する傾向が強い。立ち上げ当初は「良質な議論」という理念に共感して真摯なブロガーさんが記事やコメントを書いてくれた割合が高いので、フェイスブックからの反応が多かったわけです。

 もちろん、我々としてもモザンビークのような記事を増やしたいのですが、これも実際には専門領域をもったブロガーさんの記事から拡散したものなので、こういう方々に頑張って参加していただくという地道な作業を1つ1つ積み重ねています。

<藤代>先ほどの松浦さんのプレゼンでは、アメリカでは選挙報道でアクセスや投稿が伸びたと言われましたが、もう少しその理由を説明してもらえませんか。そして、日本とアメリカの成功要因の違いは、どこにあるとお考えでしょうか。

<松浦>2008年の大統領選をみると、オバマがクローズドな場所でポロっとしてしまった失言がブロガー経由でアクセスが集まったというケースがあります。ただ、実際のところ、反響を呼び議論が広がるための「種」を自分たちで仕込んでいるのは、アメリカも日本も一緒です。また、アメリカは選挙に限らず政治が大好きな国民性なので、アクセスが落ちずにある程度、滞留できたんでしょう。

 ウェブメディアではよくあることですが、「炎上」によってアクセスが上がっても、炎上が終わるとたいていは元のユーザー数に戻ります。ところが、ハフポストの場合、少しはアクセスが下がったようですが、それほど下がりませんでした。政治的な話題を継続してやり続けたのが大きかったのかなと思います。

<藤代>日本でも同じようにできそうですか。

<松浦>日本も一緒だと思っています。ユーザーにちゃんと情報を提供し続けることができてさえいれば、一定のアクセスは残ると思います。私が所属していたときのブロゴスの場合、実際に選挙があった時にアクセスが急激に伸びて、そのまま落ちずに選挙のたびにアクセスが伸びていました。これは政治に関心があるユーザーを最初にがっちりつかまえていたのが大きいと思います。日本もアメリカもその点では変わりません。

<伊藤>先ほど、コア企画として3つの例を挙げていましたが、これは、アジェンダ(議題)設定、キャンペーン報道のようなものだと思います。編集方針はどのように設定していますか。

<松浦>コアターゲットにあたる団塊ジュニア世代に響くネタは何かを考えて、個々の編集者からのボトムアップで決めています。

<生貝>編集方針でいうと、たとえばソーシャルメディア上の流行などをアルゴリズムで解析して、記事編集をサポートするといったことも視野に入ってくるのでしょうか。

<松浦>記事の作り方は、最終的により多くの読者・ユーザーに読まれるか読まれないかが重要になってきます。ウェブメディアではどうあっても必要なことです。ライブドアの時もそうでしたし、グリーもそうでしたが、どんなユーザーがいるのか、誰に読んでほしいのかというところからスタートする。ですから、いまソーシャル上でどんなことが流れているのかというのは、ちょっと違う話だと思っています。

 ただ、あくまで団塊ジュニア世代というターゲットを設定してはいますが、それとは別に、実際に集まってくるユーザー視点の部分も見てはいます。ハフポストはCMS(コンテンツマネジメントシステム)が非常に強い仕組みになっていて、ソーシャルや検索サービスからの流入というアクセス解析を活かしたコンテンツづくりという視点もあります。

 私自身がワイアードで雑誌づくりを経験し、朝日新聞と立ち上げに向けた話し合いをした経験をふまえると、新聞や雑誌はもともと、「読者に何かを伝えたい」という気持ちで食材を仕入れて、料理を作って、コース料理を出しています。それはそれでいい。でも、物理的な枠が決まっているという限界があります。つまり、1日に出せる情報の量は限られている。雑誌も新聞もテレビも、素材を限定しないといけないわけです。

 でも、ネットにはそうした枠はない。毎日1万本の記事を作ろうと思えば作れます。例えば、編集者がいなくても、ソーシャルから情報をもってきて、人気となりそうな記事が一定のアルゴリズムによって次から次へと生成される、というのは、将来的にないわけではないでしょう。そうなった時に、ユーザー起点で機械が記事をつくるかどうかという話はありますが、現状では、編集者がユーザー起点で考えています。

<藤代>ハフポストは、新しい書き手をどのようにして発掘しているのでしょうか。芸能人や有名ブロガーなど、既に人気ブログをもっている人だけでなく、あまり知られていない人もいるのでしょうか。

<松浦>そこのところを頑張って掘り起こしています。

<藤代>どのあたりが難しいですか。

<松浦>日本ではハフィントン・ポストの知名度がないことですね。ローンチ後、あちこちのメディアに露出させていただくようになりましたが、それでも難しい。

<猪谷>よくあるケースとしては「ワシントン・ポストですか」と言われます。

<藤代>掘り起こすことができた人たち、あるいはこれから掘り起こしたい人たちは、これまでどこかで書いている人でしょうか。どういった人を想定していますか。

<松浦>今まではウェブで書いていない人が多いと思います。むしろ今、ウェブの世界にいない人にこそ書いて欲しいと思っています。

<一戸>ところが、ウェブの世界を知らない人たちに切り込んでいくと、「え? ワシントン・ポスト?」と言われてしまうんですね。

<松浦>そうです。

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