2014年03月01日
スタジオジブリとピクサー・アニメーション・スタジオ、双方の中心人物である宮崎駿とジョン・ラセター。二人と両社の親密な関係はよく知られているが、それを体系的にまとめた記録はない。この連載では、二人の出会いで米のアニメーション・シーンに何が起きたかを中心に、アニメーション史、作家・監督史の観点から周囲を取り巻く多彩な人物群像を紹介したい。
2013年度の日本国内の映画興行ランキングは、邦画・洋画を合わせて上位10作品中、実に6作品がアニメーション作品であった(表-1)。うち、邦画は全て伝統的な手描きの2Dを基本とするセル・アニメーション作品(註1)、洋画はフル3D-CG作品のみという、極めて日本的な特徴が見られた。
(註1) 透明なセル画に動画部を描き、背景は画用紙に描いて合成して撮影する様式のアニメーションを指す。動画部と背景のマチエルが異なることが特徴。現在はデジタル上のレイヤーで区分されるだけで、セルは用いないが、用語として継承されている。
『風立ちぬ』は、スタジオジブリ制作、宮崎駿監督、プロデューサーは鈴木敏夫。 『モンスターズ・ユニバーシティ』は、ピクサー・アニメーション・スタジオ制作、ダン・スキャンロン監督、製作総指揮はジョン・ラセター、ピート・ドクター、アンドリュー・スタントン、リー・アンクリッチの4人。
スタジオジブリ作品とピクサー作品は、これまでも国内興行の上位を競ってきた。公開時期が重なることも多く、文字通りのライバル関係である。国内屈指のドル箱であるジブリ作品に対抗し得るのは、これまた連戦連勝のピクサー作品くらいしかなかったとも言える。
ジブリ作品とピクサー作品の同年公開の前例は2013年を含め過去8回、対戦成績はジブリ作品の5勝3敗。いい勝負だが、宮崎駿監督作品には常に大敗を喫して来た(表-2)。
何しろ、国内歴代映画興行ランキングの上位10作品のうち、4作品が宮崎駿監督作品である。その強さは絶対的で、宮崎駿監督の長編引退宣言を経た今、国内興行でのピクサー完敗が決定した(表-3)。
しかし、世界規模では立場は逆である。歴代世界一の興行記録を誇るアニメーション映画は『トイ・ストーリー3』であり、上位10位中3作品がピクサー作品である(表-4)。『トイ・ストーリー3』や『ファインディング・ニモ』は世界各地でアニメーション興行記録を塗り替えたという。
驚くべきは、10作品中9作品が3D-CGの近作であり、スタジオジブリ作品と同じ、2Dの古典的セル・アニメーションは、ディズニーの『ライオン・キング』1本だけという事実である。これも日本とは真逆である。
ちなみに、ジブリ作品は全米興行で『千と千尋の神隠し』1006万ドル、『崖の上のポニョ』1505万ドル、『借りぐらしのアリエッティ』1919万ドルと言われており、邦画としては異例のヒット作であるが、日本や諸国の興行と合算しても遙か圏外である。
つまり、日本は未だに2Dセル・アニメーションが隆盛を誇り、ピクサーに代表される3Dアニメーションがそのシェアを凌駕出来ない、ほぼ唯一の国なのである(註2)。
(註2) スタジオジブリもピクサーも創設初期の諸作品は、そのクオリティに相応しい興行成績を上げていたわけではない。興行記録は必ずしも作品の質的優劣を決める手段ではないが、大衆的支持・浸透の規模を示すデータとして重要と考える。
ジブリ作品とピクサー作品の国内興行時期が初めて重なったのは10年前、2004年の冬であった。
製作総指揮のジョン・ラセターは、当時「対決についてどう思うか」という日本人記者のインタビューにこう答えている。
「アイ・ラブ・ミヤザキサ~ン♥」
「『ハウルの動く城』あれは最高だよ! 日本にいるみんなは、まず『ハウル~』を見てその次に『インクレ~』を見る。そのあとに『ハウル~』をもう一度見る。そして『インクレ~』をまた見る(笑)。みんな両方見に行けばいいだけの話さ」 (「月刊 BS fan 2005年1月号」)
現在はピクサーとディズニーの2つのスタジオでチーフ・クリエイティブ・オフィサーを兼務し、全作品の総指揮を務めるジョン・ラセター。
まさに世界のアニメーションの中心に位置する彼こそ、「世界一の宮崎駿ファン」を自称する人物である。来日時には必ずジブリを訪れ、「ジョンズ・ハグ」と称して宮崎監督と抱き合って肩を叩き合う。
この底抜けに明るく熱烈なラブコールに対し、かつて宮崎駿はこう話している。 「彼の友情には感嘆します。彼ほどの友情に出会ったことがない。本当にいい、素敵なアメリカ人です」 (2002年9月8日、トロント。テレビ取材での発言。DVD「ラセターさん、ありがとう」に収録)
宮崎駿とジョン・ラセター、33年に亘る二人の友情がどこから始まり、どのように発展して来たのか。本連載では、周辺の事情、二人を支えた様々な人物像の検証と記録を試みたい。(つづく)
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