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お金の本来の役割を考える本(下)――『里山資本主義』と『銀二貫』

福嶋聡 ジュンク堂書店難波店店長

 お金がお金を生み、自己増殖していくという幻影や強迫観念から解放され、そこから行き着く破綻を免れるためには、お金が交換の媒介という本来の役割を取り戻さなければならない。

 こうした方向転換の必要性を痛感するとき、2014年新書大賞に輝いた『里山資本主義――日本経済は「安心の原理」で動く』(藻谷浩介、NHK広島取材班著、角川oneテーマ21。ぼくは新書に限らず2013年のNO.1に押した)が、2009年にNHKスペシャル『マネー資本主義』をつくったテレビクルーの手になるものだということは、とても示唆的だと思う。

 この本が描く中国山地の山あいの町でのバイオマス発電やエコストーブの利用普及、地産地消のジャム屋さんや地域ぐるみのケアサービス実践が、いきいきと生活する人びとの場を建ち上げ、維持していくさまは、さまざまなモノの、サービスの交換こそ経済=経世済民なのだということを、再確認させてくれる。

 それは決して過疎化の危機に瀕した地域の生き残り策に留まるものではない。第2章では、今日のオーストリアが、豊富な森林を資源として徹底活用する「里山資本主義」により、原子力はおろか化石燃料にも頼らないエネルギーの供給と共に雇用創造を実現し、ユーロ危機の影響を最小限に食い止めていることが紹介されている。そうしたオーストリアの行き方を代表する都市ギュッシングのバダシュ市長は次のように語る。

 「世界経済はある一握りの人たちによって操られています。それはあまり健全な事とはいえません。私たちが作り上げたモデルによって、市場を狂わせる投資家を直ちに減らすことはできないかもしれません。しかし、エネルギーという非常に大切な分野において、ある程度の主導権を握ることができるのです。私たちは、『経済的安定』に向かって大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう」

 森林資源の活用とは即ち森林伐採であり、環境破壊というもう一つの破局への道ではないのか? 否、山の木は一度切ってもまた生える、再生可能な資源であり、山の木は、定期的に伐採した方が、環境は良くなっていく。“森林は管理し育てれば無尽蔵にある資源”なのだ。

 オーストリアでは、伐採計画を厳しく管理している。そうした実績を踏まえて、“我々もまた自然である/自然に属する、のであるから、我々は自然を――生まれて死ぬのと同じ自然の〈理〉により――自由に=無料で「使って」かまわない”(『債務共和国の終焉』)と言えるのである。

 それは、人間が「万物の霊長」として生きものの世界を恣意的に支配する権利があるということではない。むしろ、人間が自らを自然から切り離し、自然を利用「対象」としてのみ見る傲りを捨てて、自ら自然の一部であり、自然と共にしか生きられないと自覚することなのだ。

 岡山県真庭市の人びとは“古来、日本人は山の木を利用することに長けていた”ことを踏まえて縄文時代より脈々と続いてきた豊かな自然を背景とする暮らしを未来へつなげていくことを目標とする。

 「私たちは、現在の森林の全体量が減ってしまうような伐採は行いません。どうするかというと、森が成長した分だけ切るのです」というオーストリアの林業は、いわば元本に手を付けることなく、利子だけで生きる道だ(『里山資本主義』)。

 利子だけで生活することは、お金がお金を生んで自己増殖をしていくことを願った人たちが、心から望んだことだろう。だが、実際に「利子で生きる」のは、一瞬にして紙くずと化す債券、否、いまではそうした軽くて薄い実体さえなく、モニター画面上で急降下する数値をなすすべもなく眺める人達ではなく、大地にしっかりと根を張って立ち続ける森林の中で、自らも自然の一部として額に汗する人々なのだ。

 大阪の書店・取次がそれぞれの垣根を越え、力を合わせて1冊の大阪の本を売り、そこで得られた利益の一部で子どもたちに本を寄贈しようというOsakaBookOneProject(OBOP)が2013年から始まった。

 その第1回の対象作品、高田郁著『銀二貫』(幻冬舎文庫)もまた、「生きたお金の使い方」を教えてくれる作品だ。

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筆者

福嶋聡

福嶋聡(ふくしま・あきら) ジュンク堂書店難波店店長

1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店などを経て、現在、難波店店長。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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