日本アカデミー賞・アニメーション映画賞の統計から
2014年03月26日
去る3月7日、第37回日本アカデミー賞授賞式が開催され、最優秀アニメーション映画賞を『風立ちぬ』が受賞した。高畑勲監督作品『かぐや姫の物語』とのスタジオジブリ作品同士の対決が注目されたが、宮崎駿監督への支持は根強かった。
アニメーション作品賞は2006年に設立、以来毎年、優秀アニメーション映画賞5作品を選定し、その中から最優秀アニメーション映画賞1作品を選出して来た。この一覧から「日本の長編アニメーションの傾向」を分析してみたい。
なお、前回アメリカのレイティングについて記したが、日本では映倫(映画倫理委員会)で審査され、「G(全世代に適する)」「PG-12(12歳未満は保護者の指導が必要)」「R−15(15歳未満は鑑賞禁止)」「R-18(18歳未満は鑑賞禁止)」などが決定されている。長編アニメーションのレイティングは、ほとんどが「G(全世代の鑑賞が可能)」指定であり、制限は大変に緩い。血しぶき、殺戮、喫煙、露出などの表現も、よほど過激・残忍でない限り「G」で済まされており、ノミネート作品は全て「G」指定である。
「表―1」は過去のアニメーション映画賞全8回の一覧である。ここからは、アメリカと正反対の極端な特徴が見て取れる。
日本では2Dセル・アニメーションだけが圧倒的な評価を得ており、興行規模も大きく、ヒットも記録し、映画賞も独占している。『風立ちぬ』も伝統的2Dセル作品である。高畑監督の『かぐや姫の物語』は、セル様式を用いながら背景と人物が一枚の水彩画のように一体化した新様式に挑んでおり、ここが評価・動員の分岐となった可能性もある。
最優秀賞8作品のうち、4作品がスタジオジブリ製作、うち2作品が宮崎作品。この8年間にスタジオジブリで製作された長編6作品全てが優秀賞を受賞している。これも大変な勝率と言える。
加えて、アニメーション映画賞設立以前にも、宮崎監督の『もののけ姫』(第21回)と『千と千尋の神隠し』(第25回)が実写作品を押しのけて最優秀作品賞(グランプリ)を獲得している。これが部門設立の遠因となった可能性もある。
一方、3D-CGの長編アニメーションの製作数は大変少なく、大ヒットの前例も、主要な映画賞を獲得した前例もほとんどない。アメリカで2Dの衰退が始まった2000年頃、日本でも3D全盛時代が到来するという予見が聞かれたが、そうはならなかった。
日本人は、12世紀の絵巻物時代から、線で括って塗り潰された平面キャラクターを愛し続けており、その遺伝子的成果と言えるのかも知れない。もちろん、背景・カメラワーク・エフェクトなどにCGは大いに活用されているが、キャラクターだけは今なお「2Dにあらずんば、アニメーションにあらず」といった状況である。数が作られなければ技術も演出も進歩せず、観客層も開拓出来ず、企画力も後退せざるを得ない。
ストップ・モーションの長編は更に少ない。この8年間で『こま撮りえいが こまねこ』(2006年)『チェブラーシカ』(2010年)の2作品が製作されているが、労作ながら動員に繋がらず、優秀賞の選外とされている。
要するに、立体的造形のキャラクターはCM用マスコットやフィギュアとしては支持されても、なぜか長編で動き回るのは敬遠される傾向にあるようだ。ストップ・モーション長編は、海外の大作でも日本では大ヒットの前例がない。
このように、2D以外の国産長編は低調だが、それは輸入の3D-CG作品が支持を集め、供給が足りているからだとも言える。特にアメリカ製CG長編は、作品数・予算規模・技術水準の全てが国産とは比較にならない。
アメリカ製CG長編はヒットを連発しており、国産2D作品と評価興行も立派に肩を並べている。その筆頭がピクサー作品であり、他社作品の2倍・3倍の動員・興行収入を誇っている。まさに世代を超えた支持を獲得していると言って良い。
「表―2」は日米の主な3D-CG長編の興行収入比較である。
諸作の風刺を含むコメディや饒舌な動物たちが活躍するカートゥーン的作風は、アメリカの伝統芸と言うべき「王道」である。しかし、日本では低年齢層のファミリー・ムービーといった認識が一般的であり、全世代の動員が困難なように見受けられる。
同じ層の観客は、『ドラえもん』『ポケット・モンスター』など、毎年公開される人気シリーズの新作と被る。テレビシリーズや漫画原作の人気とリンクした各シリーズは、アメリカ産新作より遙かに馴染み深い。たとえば、2012年3月公開の『ドラえもん のび太と奇跡の島』の興行収入は36億2000万円、同時期公開のドリームワークス作品『長ぐつをはいた猫』は11億7000万円と3分の1にも満たなかった。
一方、ピクサーの諸作は、玩具、昆虫、モンスター、魚、自動車、ネズミ、ロボットなど、別世界の住人たちの成長譚を通じて人間社会を客観的に描くという、「王道」から外れた斬新な路線を開拓して来た。観客は未知の技術で描かれた普遍的な物語に魅せられたのではないだろうか。
もう一点、特筆すべき内容がある。ピクサーの近作
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