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*一部物語の内容に触れていますので、ご注意下さい。

 アカデミー賞長編アニメーション賞、歌曲賞をダブル受賞したディズニー製作の長編3D-CGアニメーション映画『アナと雪の女王』の大ヒットが続いている。本稿では、その功罪両面の検証を試みたい。まずは功績から。

 『アナと雪の女王』は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの創作童話を翻案した物語とされている(クレジットに「Story Inspired by」とあり、「原作」ではない)。

『アナと雪の女王』のアナ(右)と姉エルサ (C)2014 Disney. All Rights Reserved..jpg拡大『アナと雪の女王』のアナ(右)と姉エルサ     (C)2014 Disney. All Rights Reserved
 主人公は小国アレンデールの王女姉妹アナとエルサ。姉のエルサは、生まれつき触れたもの全てを氷結させてしまう魔法の力を持っていた。

 エルサは幼少期に妹アナを傷つけてしまったことから、年々増大する魔法の力を隠し、城内の部屋に閉じ込もって暮らした。

 やがて、王と王妃は事故で他界。3年後にエルサは女王になるための戴冠式に臨むが、アナは来賓のハンス王子と出会ってすぐに結婚すると言い出し、口論の末に魔法を使ってしまう。

 その威力に怯える人々を後に、エルサはノースマウテンに逃れ、氷の巨城を築く。アナは国政をハンスに託して姉を追う。途中、氷商の青年クリストフとトナカイのスヴェン、雪だるまのオラフに助けられながら、アナはエルサの城を目指す……といった波瀾万丈の筋立てである。

 3月に全世界興行収入で総計980億円に到達し、『ライオン・キング』(1993年)の持つディズニー長編歴代最高の951億円を超え、未だ公開中(「Boxoffice Gross」)。

 日本でも公開から3週連続1位、公開後わずか17日目にして、動員432万人、興行収入52億円を達成。「洋画アニメーション史上最速の興収50億円突破」「興収100億円突破も確実視」(4月1日付「シネマトゥディ 映画週末興行成績」)とのこと。ちなみに、宮崎駿監督『風立ちぬ』は公開16日目の時点で動員350万人、興行収入43億円(2013年8月6日付「シネマ・トゥデイ 映画週末興行成績」)。

 スクリーン数は『アナ』(吹替版・字幕版の総計)598、『風立ちぬ』454と規模が異なるものの、3週目の時点では『アナと雪の女王』が上回っている。アカデミー賞同様、日本の興行成績で『風立ちぬ』の総計120億2千万円を抜くのかどうか、今後も注目が集まることだろう。

 本作の特徴は、何と言ってもミュージカルであることだ。

 ピクサー製作の『トイ・ストーリー』(1995年)を皮切りに量産された3D-CG長編群は、それまでアメリカの長編アニメーションの伝統だったミュージカルの構成を捨て、日本型の台詞による物語主導の構成を採用し、新たなアニメーション・シーンを築き上げて来た。

 しかし、ディズニーは「もはや時代遅れ」と片付けられていたミュージカル・アニメーションの埃を払い、新たなモチーフで再生させた。世界初のカラー・ミュージカル長編アニメーション『白雪姫』(1937年)を生み出したウォルト・ディズニー・スタジオから、この作品が生まれたことは歴史の必然であったと言えるのではないか。日本や欧州のスタジオは元より、米国内の他社でも成し得なかった快挙と言える。

 以下、歌曲の構成と演出について述べたい。

ダブル・ミーニングの主題歌「Let It Go」

 前半のクライマックスに、城から逃れた姉のエルサが自分の魔法を解放し、氷の巨城を築き上げるシークエンスがある。

 エルサは、主題歌「Let It Go(ありのままに)」を高らかに歌い上げながら、閉じ込められ抑圧されて来た氷結魔法の力を解放し、ティアラを捨て、髪をほどき、衣装も容姿も変え、自分自身を取り戻す。

 指先から生まれる様々な形態の雪の結晶、渦巻く雪風で築かれる硝子細工のような空中階段、ヒールで氷原を打つと広がる巨大な雪の結晶のレリーフ、下から腕を持ち上げると共にせり上がる氷柱、何層にも屈折して輝くクリスタルのような氷の結晶、どれもが3Dで構築された氷の芸術。

 スタッフは雪の結晶を分子レベルで研究し、実に2000種類の雪片を描き分けたという。俯瞰の大ロングで氷山から回り込みつつ尾根を登るエルサを捉える冒頭の長回しの1カット、宮殿の天井構築を地から天へと縦に振り仰ぐカット、バルコニーから一気に遠ざかる終盤のカットなど、カメラワークも効果的だ。

 特筆すべきは、従来ディズニー作品では避けられてきたと言われる縦型の奥行きの表現(宮殿内)、真上(手袋を脱ぎ捨てるカット)や真正面のアングル(後述)が用いられていることだ。いずれも、旋律・歌唱・アニメーションが融合した画期的なシーンである。元より、アニメーションはメタモルフォーゼ(変身・変化)が得意なメディアであり、城を築く物質的変化と自己回復の心理的変化を重ねることは表現の本質とも合致している。

 従来のディズニー長編の主題歌は、恋人同士の愛情や世界の素晴らしさを綴ったポジティブな歌詞のデュエットや合唱曲が多くを占めていたが、「Let It Go」のように個人の内面的解放を謳った「孤立無援でいい」というネガティブとも受け取れる歌詞の独唱曲は前例がない。しかも、メインのヒロイン・アナの心情でも、ハッピーエンドの到達点を歌ったものでもなく、エルサが物語の途上で達した高揚感を歌ったものだ。

 しかし、大団円の後のエンドロールで今一度流れると、同じ歌詞が「ありのままで皆と生きる」という別のポジティブな解釈に感じられてしまう。ダブル・ミーニングに相応しく、同じ曲を劇中ではエルサ役のイディナ・メンゼル(日本語吹替版では松たか子)が歌い、エンディングはデミ・ロヴァート(日本語版はMay.J)が歌う。 キャラクターの心情変化と楽曲の変奏が合致しているというわけだ。

 「Let It Go」の作詞・作曲は、『くまのプーさん』(2011年)のクリステン・アンダーソン=ロペスとロバート・ロペス。90年代のディズニー・ミュージカルを支えたアラン・メンケンの歌曲『美女と野獣』の「Beauty and the Beast」や『アラジン』の「A Whole New World」のシーンのように、長く人々の記憶に残る主題歌となるのではないだろうか。

「扉の開閉」に歌と物語が呼応

 また、戴冠式の朝、姉妹が初めて城外に出るシーンと、氷の城で姉妹が対話するシーンで歌詞を変えて繰り返される 「For The First Time in Forever(生まれてはじめて)」、アナとハンスが恋におちる様々なシチュエーションを短いカット(途中、アナは何度も窓を開ける)を連ねて表現した会話風の「Love Is an Open Door(とびら開けて)」も印象深い。

 「心理的解放によって、世界が救われる」というモチーフに沿うように、この作品では何度も「扉の開閉」シーンが象徴的に挿入されている。

 「開ける」は楽観・期待・解放・善意、「閉める」は悲観・絶望・閉塞・敵意を示す。

 開放的なアナは、姉の部屋の扉をノックし続け、戴冠式の朝に城門を開き、オーケンの店の扉を開き、クリストフとスヴェンが休む納屋の扉を開け、姉の氷の城の扉をノックして開く。一方、父の王は城の門を閉じ、窓を閉め、エルサの部屋の扉を閉じる。ハンスはエルサの牢の扉を閉め、衰弱したアナを閉じ込め鍵をかける。扉と窓を開けるのは楽天的な雪だるまのオラフだ。

 ただし、例外もある。前述の「Let It Go」のシーンの末尾、氷の巨城を築き終えたエルサが真正面のカメラを見据え(前述)、不敵にも見える笑顔で扉を閉じ、ケープの裾を翻して城内へ消えるカットである。

 このカットには、「扉を閉じる」ことに「開ける」と同じ意味が重ねられている。アナと対照的に、エルサにとって「開ける」は恐怖と怯えと期待の混濁した複雑な行為だった。城の扉を開けた時のエルサに、少しの期待はあっても心からの笑顔はなかった。彼女は、自らの築いた城の扉を閉じることで、初めて心を解放したのである。つまり、逆転効果を実現しているため、他の「閉める」とは大きく印象が異なり、一層印象深く感じるのではないか。

 いつも積極的に「開ける」ことが出来なかったエルサとアナの最後の会話は「門が開いているっていいわね」。続いてエンディングの「Let It Go」。見事に「開閉」に呼応した演出が全編に貫かれており、歌詞と曲がこれを更に高めている。

 これらのシーンは、おそらく綿密な計算とスタッフワークによって成立したものである。

主題歌大ヒットはディズニー長編復活の証

 かつてディズニー長編は、登場人物たちが自らの心情を歌い上げるミュージカルシーンが最大の見せ場であった。「Let It Go」のアカデミー賞歌曲賞受賞は、ディズニーとしては1999年の『ターザン』の「You’ll Be in My Heart」以来である。

 90年代のディズニー作品は、毎年のようにアカデミー賞歌曲賞を受賞しており、それらの作品は未だに色褪せず、高い評価を獲得し続けている(表参照)。特に連続起用されたアラン・メンケンの優れた楽曲の数々は、ディズニー=ミュージカルのイメージを決定づけた。この14年間、様々なディズニー作品が生まれ、ミュージカル作品もあったのだが、主題歌のヒットは実現しなかった。

ディズニー作品のアカデミー賞歌曲賞受賞一覧拡大ディズニー作品のアカデミー賞歌曲賞受賞一覧
  本作の「サウンドトラック」は全米チャートで17週連続ランクイン、16週目になってから再浮上で2週連続1位を獲得(3月28日付「Billboad Japan」)。日本国内チャートでも3週連続1位で10万枚を突破、日本語版を加えたデラックス版の発売も決定。エルサ役のイディナ・メンゼルの歌う「Let It Go」も洋楽チャート2週連続1位(3週目は3位)、アニメーション部門では松たか子、メンゼル、May.Jの各ヴァージョンの「Let It Go」が2週連続トップ3を独占という前代未聞の大ヒットとなっている(4月2日付「Billboad Japan」)。

 見事なミュージカルシーンの復活と歌曲の大ヒットは、ディズニー長編の本格的復活を意味するものと思えてならない。

 次回はディズニー・アニメーションの歴史的位置・スタッフワーク・作画技術的観点から述べる。(つづく) 


筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『日本のアニメーションを築いた人々』(若草書房)、『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)など。

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