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『Seventh Code:セブンスコード』の衝撃! 前田敦子をアイドルから女優に変身させた黒沢清の映画錬金術(上)――動線/アクション描写の超美技

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 ローマ国際映画祭で2冠(最優秀監督賞、最優秀技術貢献賞)に輝いた黒沢清監督、前田敦子主演の『Seventh Code:セブンスコード』は、60分の中編ながら、観客の度肝を抜くような超傑作である。

 この映画は、もともとは前田敦子の新曲のPV/プロモーション・ビデオとして発想され、なぜか東京・渋谷などで1月に1週間のみレイト上映(!)されたのち、この3月に発売された前田の同名シングルCD(生写真付き)に、DVDとして封入された。私などは前田敦子の新曲が聴きたいというより、黒沢清の新作見たさにこのソフトを買ってしまったのだが、そういう客は少数派だろうか。

 といったことはさておき、ロシアのウラジオストクで撮影された本作の素晴らしさについて、語りたい。

 後半にあっと驚くどんでん返しがあるものの、映画は――物語を含めて――、きわめてシンプルに研ぎ澄まされている。

――秋子(前田敦子)は、東京で一度だけ会った男・松永(鈴木亮平)を追いかけ、ウラジオストクまでやって来る。秋子は松永と再会を果たすが、彼は彼女を覚えておらず、そのまま姿を消す。秋子は、斉藤(山本浩司)が経営する食堂で働きながら、松永の行方を追う。やがて、松永がマフィアの闇マーケット――目玉商品は核爆弾の部品クライトロン――に関わっていることが、明らかになる……(これ以後の展開は後述)。

『苦役列車』」の前田敦子。右は森山未來拡大『苦役列車』」の前田敦子。右は森山未來
 『Seventh Code』を見る前、私がいちばん気になったのは、『もらとりあむタマ子』(山下敦弘)でも、『クロユリ団地』(中田秀夫)でも不発だった前田敦子を、黒沢清がどのように演出したのか、という点だった。

 そもそも、口の悪い輩には「猿顔」などと揶揄される前田の大きな四角い顔は、十人並みで華(はな)がない。滑舌も悪く、姿勢も良いとはいえず、立居振舞にもキレがない。色気もゼロに近い。

 普通に撮れば、スクリーンに映えるわけがない。その点で、出来は低調だったが、不機嫌で不活発な主人公を前田に演(や)らせた前記『もらとりあむタマ子』の配役自体は、間違ってはいなかった(前田の“どんより感”を誇張しすぎて単調になったのが、最大の敗因。ちなみに同じく山下敦弘の佳作『苦役列車』<2012、原作・西村賢太>で、古本屋のアルバイト店員に扮した前田敦子は“普通に地味な感じ”が比較的よく出ていて、悪くなかった)。

 ではいったい、黒沢清はそんな前田敦子をどう演出したのかといえば、のっけから彼女を、

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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