2014年05月08日
カズオ・イシグロの傑作長編『わたしを離さないで』が、蜷川幸雄演出で舞台化された。ある特殊な施設で暮らす少年少女たちの数奇な運命をたどった物語だ。蜷川は、このディストピア小説を抒情性豊かな舞台に仕上げた。
寄宿学校「ヘールシャム」では、生徒たちが思春期を迎え、若い輝きを放っている。プロローグを置いての冒頭、少年たちがサッカーボールを追い、舞台後方からスローモーションで前面にせり出してくる。学校は海に近く、波の音や汽笛が聞こえ、教室の白いカーテンが風に揺れる。透明感あふれるさわやかな幕開けだ。
一見、普通の学園生活に見えるが、冬子先生(銀粉蝶)はしきりに「ヘールシャムの生徒は特別」だと説く。いったい何が「特別」なのか?
彼らは多くの時間を図工に費やし、製作した作品を「マダム」(床嶋佳子)と呼ばれる女性が買い取ってゆく。なぜかマダムは生徒たちを怖がっている。この女性の謎が終盤への伏線となる。
2年後、使われていない教室で、良心的な晴美先生(山本道子)は集まった八尋ら3人に言う。「あなた達は、普通の人たちが働くような仕事には就けない……なぜってあなた達の人生はすでに決められているんだから……」と。
そして、衝撃の事実が明らかになる。生徒らは、成長してのち臓器提供することだけを目的に作られたクローン人間だったのだ。
彼らは「ヘールシャム」を出て「農園」に移り、準備期間に入る。次に、提供者の介護人を3年以上務めたのち、何度かの提供をして使命を終える、というルートが定められていた。クローン人間は心を持ちながら、人権はないのだ。
しかし、クローン人間同士が愛し合うことは普通にある。「農園」を出ることは愛する者との別れを意味し、彼らは残り時間が少ないことを自覚する。
そんなある日、「農園」の同僚から、「鈴のオリジナルを目撃した」という情報が寄せられる。その女性は、かつて鈴が憧れたガラス張りのオフィスで働いているという。鈴らはその女性を見に行き、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください