2014年05月29日
5月26日、『アナと雪の女王』の日本に於ける興行収入が200億円に到達、累計動員は1574万人を突破した(5月27日付『NHKニュース』)。
日本歴代興行収入5位の『もののけ姫』(193億円)、4位の『ハウルの動く城』(196億円)を抜き去り4位に浮上。今週中にも3位の『ハリー・ポッターと賢者の石』(203億円)の記録を突破すると思われる。ちなみに、2位の『タイタニック』(262億円)、1位の『千と千尋の神隠し』(304億円)を含め、上位作品は全て夏冬の長期休暇前後に公開された作品である。3月公開作でここまで記録を伸ばした前例はない。
一方、世界興行収入は1219億2700万円に到達し、『アイアンマン3』(1215億円)を抜き歴代4位となった(5月25日付『Box Office Mojo』)。どこまで記録が伸びるか、その行方に目が離せない。
『アナと雪の女王』は、アンデルセンの『雪の女王』が「原案」とされている。ディズニー長編では物語の展開もキャラクターの設定もかなり違っていたとしても、元となった物語が存在する場合は日本語訳では「原作」と表記されて来た。おそらく、「原案」という表記はディズニー長編としては前例がないのではないか。
今回は『アナと雪の女王』とアンデルセンの『雪の女王』の関係について考察してみたい。
『アナと雪の女王』の原題は「Frozen(氷結した)」。言うまでもなく、邦題はハンス・クリスチャン・アンデルセン (Hans Christian Andersen)の創作童話『雪の女王(原題 SNEDRONNINGEN/THE SNOW QUEEN)』から採ったものだ。『雪の女王』は、何度も映像化され知名度も抜群のタイトルであり、原題よりもはるかに馴染み深い。この邦題が日本での成功要因の一つと言っても良いだろう。
しかし、作中の台詞にも歌詞にも「SNOW QUEEN(雪の女王)」という単語は見当たらない。エンドクレジットには、「Story Inspired by THE SNOW QUEEN(『雪の女王』に触発された物語)」とあり、宣伝資料類では「原案」と訳されている。
従来ディズニー長編のシナリオは「原作」が存在するか、完全なオリジナルかのいずれかであった。日本語訳では「原作」に一元化されているが、クレジット表記は「Based On(〜に基づく)」「Adapted From(〜の改作)」など作品毎に違っている。おそらく、改変の度合に応じて表現を使い分けていたものと思われる。
たとえば、グリム兄弟の童話(元はドイツ・ヘッセン州の民話)『白雪姫(原題 Schneewittchen)』を題材とした映画『白雪姫/Snow White and the Seven Dwarfs』(1937年)には 「Adapted From GRIMM’S FAIRY TALES(グリムのお伽噺の改作)」と表記されていた。
映画と原作の基本設定は同じだが、挿話の多くは圧縮され、残酷な描写は軒並みカット、または改変されている。
具体的には、継母の王妃が白雪姫に腰紐や毒の櫛(くし)を売りつけて何度も殺す場面、姫が死後リンゴを吐き出して蘇生する場面、後日談の婚礼で王妃が赤く焼けた鉄の靴で踊らされる場面などである。映画では姫が殺されるのは一度だけ、王子のキスで蘇生し、後日談はない。
『アナと雪の女王』以前にアンデルセンの『人魚姫(原題 Den lille Havfrue)』を題材とした『リトル・マーメイド(原題 The Little Mermaid)』(1989年)では、「Based On The Fairy Tale By Hans Christian Andersen(アンデルセンのお伽噺に基づく)」と表記されていた。
この作品も基本設定は同じだが、物語の展開は全く違っている。
原作では、王子は自分を救った人魚姫を別の人間の少女だと勘違いし、その少女と結婚。恋に破れた人魚姫は王子を殺す選択を迫られるが、これを放棄して泡となって消滅してしまう。昇天に際し、空気の精となって300年の時をさまよう後日談で終わる。映画では、少女は登場せず、深海世界の征服をたくらむ魔女を王子と姫の姉たちが力を合わせて退治し、恋愛成就のハッピーエンドとなっている。
特異な例は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島(原題 Treasure Island)』を題材とした『トレジャー・プラネット(原題 Treasure Planet)』(2002年)である。
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