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JLG、ダークホースで審査員賞受賞! でもゴダール、カンヌやめるってよ。(下)――ウルトラ高飛車ぶりとビデオレター

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 さて今回の騒動でとばっちりを受けたのが、クエンティン・タランティーノだ。彼は1994年に『パルプ・フィクション』でパルムドールをもらったし、2004年には審査委員長を務めているしで、カンヌとは深い仲。

 今回は『パルプ・フィクション』の20周年記念上映会に合わせ、カンヌ入りをしていた。彼は自身の製作会社の名前を、ゴダール作品の『はなればなれに(Bande à part)』にちなんで「A Band Apart」とするほどにゴダールの信奉者。きっと映画祭側としては、ゴダールがカンヌ入りすれば、タランティーノと新旧鬼才の夢の共演が演出できるだろうと、気を利かせてお膳立てしていたのではないか。

 ところが蓋を開けると、ゴダールはカンヌを欠席。そしてスイスのテレビに出た後は、なぜかフランスのラジオにも出演し、「(タランティーノは)哀れな奴、価値のない奴」「(タランティーノが)幸せなら、いいんじゃない。ああいう奴は昔なら嫌われたものだが、今は放っておいてるのさ」などと暴言を吐いた。

 タランティーノがゴダール作品にちなんで付けた製作会社の名前については、喜ぶどころか、「(タランティーノは私に)使用料金を払ってない」とばっさり。単にタランティーノは、テンション高めなゴダールファンなだけなのに、散々な言われようである。

 しかし、筆者は覚えているぞ。かつてゴダールは『ゴダール・ソシアリスム』の中で、アニエス・ヴァルダの『アニエスの浜辺』にある空中ブランコのシーンを、無断で拝借していたことを。インタビューでも、「アニエスには使用料金を払ってない。催促されたら払ってもいいけど」と語っていた。自分の未払いの方はいいのか、と思わず突っ込みを入れたくなる。

 何はともあれ、ゴダール様の高飛車ぶりは、何も昨日、今日に始まったことではない。昔はトリュフォー、近年ではクロード・ランズマンやポンピドゥ・センターのキューレーターなど、標的を変えながら、いつも誰かと喧嘩をしている筋金入りのトラブルメーカーである。近くにいたら間違いなく鬱陶しい人物だろうが、それでも芸術家としては、高飛車な態度も大いに意味がある。映画監督など、ある程度しっかりとしたエゴがないとつまらない。

 それにそもそもゴダールは、ウルトラ高飛車に見合うだけの圧倒的な才能がある。高飛車になるにも資格があるとすれば、『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』といった傑作を作ったゴダールの場合、誰が何と言おうと、その資格があるというものだ。

 さて彼の高飛車な態度だが、これが前世紀の話であれば、もっと心証は良かったのかもしれない。”妥協を許さぬ孤高のシネアスト”という印象を周囲に与え、それなりに”天才伝説”を彩る効果があったと思う。

 「勿体ぶってカンヌに来ない作戦」というのは、例えば30年前だったら、歌番組の『ザ・ベストテン』で、せっかくランキングされたのに出演しない自称・アーティスト歌手のように、それなりにオーラを演出することが可能だったことだろう。

 だがもう時代は、有象無形の情報というか雑音で世論が形成される21世紀。ゴダールの一挙一動は、ツイッターやブログ、ニュースにのって、すぐに世界にだだ漏れし、一瞬で配信される。

 今回の彼の生々しい言動の数々は、孤高のシネアスト・オーラを演出するより、なんだか「ゴダール、人間ちっちゃ!」という印象を、無駄に拡散しているように思えるのだ。”ゴダール天才伝説”を、本人が自分で汚していることに、ファンの一人としてはちょっと残念に感じてしまう。私たちは天才神話を保つのに、難しい時代を生きているということだろう。

 そしてゴダールがますます頑固爺さんとなり、態度を硬直化させていくのとは対照的に、今回カンヌで清々しく軽やかで、監督としてもかなり幸せそうな印象を振りまいていたのが、

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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