2014年06月02日
交流戦も3分の1が経過した。カープは8試合を終わって3勝5敗(5月29日現在、以下同じ)。パ・リーグ上位のソフトバンクとオリックスにいきなり4連敗したものの、徐々に持ち直している状況だ。好意的に見れば、連敗からずるずると低迷しないあたりが今年の地力を物語っている。
こうしたカープを率いるのは、今年5年目となる野村謙二郎監督である。ご存知の通り、現役時代は俊足・好守のショートとして90年代のカープを牽引し、2000本安打も達成した名選手である。
マーティー・ブラウンの後を受けて、コーチ経験のないまま監督に抜擢されたのは2010年のシーズンのこと。しかし、ブラウン監督が培ってきたカープを野村監督は一度ぶっ壊した。09年に3.59だった防御率は、一年で4.80まで悪化したのだ。
ブラウン監督は、とても合理的な監督だった。中継ぎは明確に役割分担し、先発投手陣にも決して無理をさせなかった。捨てる試合はあっさり捨てていた。そして就任3年目の2008年には、エースの黒田博樹と4番の新井貴浩が抜けたにもかかわらず、3位まであと一歩のところにまで迫った。
僅差で負けていても、逆転を信じて勝ち試合の中継ぎを投入し、結果、ブラウンが整備した中継ぎ投手陣は一気に崩壊した。
今年のカープを見ていると、信じられない光景だ。一岡・永川・中田廉を勝ち試合の中継ぎとして固定し、負けていても僅差では決して投入しない。大差の負け試合は決して無理をせず、主力を休ませたりする。野村監督は変わったのである。
今年で言えば、野村祐輔の再調整とキラの怪我による一時降格にも野村監督の成長が見て取れる。
野村祐輔が不調であれば、早い段階で2軍で調整させ、他の投手を試した。キラが背中に死球を受けて数日間離脱せざるを得ないときは、即座に2軍で10日間調整させてロサリオを昇格させた。
これはともに、長いシーズンを考えた上での判断だったという。そして短期間だったが、昇格したロサリオは期待以上の結果を残した。
就任当初は必死に目先の1勝を目指していた熱血監督は、144試合という長いペナントレースを見越した熟練監督に成長したのである。
野村監督の成長は、戦術にもはっきり見て取れる。その変化をわかりやすく表すのが、犠牲バントの減少である。
50試合を経過して、カープの犠打は39。1試合平均0.78回である。それは過去の4年間と比べると驚くほど少ない。10年は平均0.97回、11年は1.25回、12年は1.22回、13年は1.11回である。大幅に減っている(ちなみに、ブラウン監督は4年間の平均で1試合平均0.73回)。
それを強く印象づけたのは、5月18日の巨人戦だった。ローテーションを入れ替えてまで臨んでいた3連戦の3戦目は1勝1敗で迎えていた。相手のピッチャーは4月9日の試合で15三振を喫したセドンである。初回、先頭打者の梵がヒットで出塁し、バッターは2番の菊池。これまでなら送りバントをするところだが、野村監督はヒッティングを選択した。そして、菊池は先生の2ランホームランを放ったのである。
この結果は決してたまたまではない。前回、最終回までほぼ完璧に抑えられたセドンから、菊池だけは二塁打を含む3安打を放っていた。その相性を考えて、野村監督はヒッティングを選択したのである。それは大いなる成長であった。昨年までなら、ほぼ確実に送りバントをしていたケースだからだ。昨年も一年間2番を任された菊池の犠打数はリーグトップの50だったほどである。
統計学的に野球を解析するセイバーメトリクスの見地においては、送りバントはそれによって得点をできても、得点数は少なくなるという結果が出ている。当然1アウトを自動的に相手に献上するので、1点は取れてもビッグイニングに繋がる可能性は減る。
しかし、日本のプロ野球ではメジャーリーグと比べると送りバントの数が倍近く多い。こうした非合理的な戦術を好むのは、やはり文化的な違いである。とくに日本の高校野球では送りバントは好まれる。“犠牲バント”と呼ばれるその行為は、自己犠牲の精神を重んじる高校野球ではチームの結束を高める効果があると信じられているのだろう。
過去4年間の野村監督の犠牲バントの多さは、(低反発球による極端な打低シーズンの影響や長打力の多寡もあるが)高校野球の延長線上にある非合理的な古い戦術を積極的に採用していたことを意味する。それが、熱血漢の若手監督の姿勢だったのである。だが、今年の野村謙二郎はこの点においても熟練監督に変貌したのである。
過去の野村謙二郎は、“迷采配”が目立っていた監督でもあった。
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