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キムタク「HERO」で、フジテレビV字回復への道を勝手に指南

矢部万紀子 コラムニスト

 2時間枠のミステリーものをよく見る。片平なぎさも船越英一郎も山村紅葉も、西村京太郎も森村誠一も内田康夫も、会ったことも読んだこともないが、心の中ではよーく知った気になっている。21時半過ぎには主な登場人物が出そろうが、そこで犯人を当てるのも(わりと簡単だが)得意だ。

「相棒」で主役の杉下右京を演じる水谷豊さん拡大「相棒」で主役の杉下右京を演じる水谷豊さん
 そんな私のミステリー・ウォッチ史でのいちばんの自慢は、2000年6月に土ワイ(テレビ朝日系の土曜ワイド劇場っす)で放送された「相棒~警視庁ふたりだけの特命係」を見て「おもしろいっ!」と感動し、土ワイ枠の「相棒」(計3本)はすべて見て、2002年10月に連ドラになると聞いたときは「えー、つまんなくなっちゃうんじゃない?」と我がことのように心配し(「家政婦は見た」が連ドラになって超つまんなくなったという「実績」がテレ朝にはあった)、でも始まったら全然レベルが下がってなかったので、「えらいっ!」と心で拍手喝采し、以後、ずーっと見ている、というのがある。

 と前フリをしておいて、ここからが「HERO」である。

 13年ぶりに帰ってきたこのドラマを見て、いちばん強く思ったことは、「もしフジテレビがフジテレビじゃなかったら、『HERO』は『相棒』になれたのになあ」だった。

 すっごい単純な話だが、「HERO」は脚本がよくできていて、おもしろいのだ。

 登場人物のキャラもすごく立ってる。よい脚本家が、原作なしのオリジナルで毎回、勝負に出ている感じが伝わってくる。軽さの中に、現代社会を見据えて「正義とは」と問いかける視点が入っている。主人公と彼を支える二番手の「信頼」が中心にあり、二人を取り囲むしっかりしたレギュラー陣がいる。そこに1話ごとの豪華なゲスト。全部、「相棒」と同じ構造だ。

 当時、最高視聴率36.8%で「神番組」と言われたそうだが、これをシリーズ化していたらフジテレビは今とは全然違っていたろう。

 だって毎年、「HERO」の季節がめぐってくる。それが安定的な視聴率を稼いでくれる。正月三が日のいずれかの2時間を「HERO」にあて、お正月らしく豪華ロケなども敢行、にぎやかに新年をスタートさせる。

 あ、その前にこの13年で1度くらいは、NHKの紅白歌合戦で「世界に一つだけの花」SMAP枠とは別に、木村拓哉さん単独で「HERO」枠を作らせ、家にいる工藤静香に「これから帰ります」などと言わせることもできた。

 これを全部、テレビ朝日の「相棒」と水谷豊さんにもっていかれてしまった。視聴率1位を日テレと争う「指定席」はテレ朝のものとなり、フジテレビは「振り向けばテレビ東京」などと言われるよもやの事態。うーん、小さな分かれ道、どちらを選ぶかって大切なのね、と勝手にしみじみ。

 奇しくも、というほど力の入ったことでもないが、「HERO」が月9枠でオンエアされたのが2001年1月から3月で、そのとき「相棒」はまだ土ワイ、連ドラ化は2002年の10月からだった。

 フジが先に「HERO」をシリーズ化してしまうことも可能だったのにー、と私が悔しがる理由は何もないが、ひとつ確実に言えるのは、もしシリーズ化されていれば、28歳の木村さん演じる「久利生公平検事」が徐々に徐々に、現在の41歳まで歩んでいくのだから、47歳の水谷豊さん演じる「杉下右京警部」が徐々に徐々に61歳まで進んだのと同じで、見ている側も何となく納得がいって、13年ぶりに東京地検城西支部でお目にかかった久利生検事に、「うわっ、キムタク年とったなーー」などという感想を抱くことはなかったはずだ。

 シリーズ化も10年を超せば、松たか子さんも久利生検事の事務官・雨宮舞子を演じるのに飽きてくるかもしれないし、ほかにしたい仕事もできるだろうし、もしかして木村さんとの不仲説だってまことしやかに流されるかもしれない。そうしたら、「次の事務官は誰だ」でまたまた引っ張り、満を持して及川光博じゃない北川景子を起用し、これは案外短命かもしれないが、そうしたらまた、成宮寛貴じゃない別な女優を起用し、次のシーズンは新鮮さなどを武器に、また視聴率を上げればよろしいのだ。

 なーんて書きましたが、ムリだったと思う。だって2001年当時を思い出せば、フジテレビは、やっぱり「民放の雄」。その4年後には天下のホリエモンが「フジテレビ、買いたいよーー」な騒ぎを起こしたりするわけで、視聴率1位争いは日テレとしていても、イケテる加減では他の民放の追随を許さない存在だった(と思う)。

 そんなテレビ局が「ドラマのシリーズ化」なんて、「えー、冗談じゃないよ、橋田壽賀子の『渡る世間は鬼ばかり』じゃないんだから」な雰囲気だったろう(念のためですが、「渡鬼」はTBSです)。全くの想像だが、「ひとつの成功したコンテンツにしがみつくより、新しいもの見つけようぜ」が価値観だったと思うのだ。それの象徴が「月9」で、シリーズ化など全然せずの連戦連勝。それがあったからこそ「天下のフジテレビ」になったわけだ。

 が、連戦連勝が徐々に「連戦時々勝ち」になり、「連戦かなり負け」になっても、なかなか手が打てず、「そのうち何とかなるのではないか」と思っているうちに、何度も使って恐縮だが「振り向けば、テレビ東京」になってしまったことは、同じ「天下の」を頭にくっつけて揶揄していただくことの多い新聞社に長く勤めたものとして、想像に難くない。

 で、ドラマに映画に「連戦連勝の」フジテレビを支えた亀山千広社長が、いよいよお尻に火がついて頼ったのが、「神番組・HERO」というのも分かりやすい。だから視聴率が2回目で20%割れて、3回目で回復と世間が騒いでいるが、それより何より、天下の木村拓哉さんに再登板を説得するのは大変だったろう。

 今回、木村さんは「HERO」オンエア前にいろいろインタビューを受けていて、「流れをつくってくれた人たちを信じて」再登板したと説明していた。「あまり乗り気ではなかった」の大人な表現だろう。

 さて、その木村拓哉さんだが、

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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