2014年08月04日
ダニエル・シュミットの『トスカの接吻』(1984)は、<ヴェルディの家>で暮らす往年のオペラ歌手らを被写体にした、素晴らしすぎる“虚構のドキュメンタリー”だ。<ヴェルディの家/憩いの家>とは、かの大作曲家ジュゼッぺ・ヴェルディが晩年に私財を投じてミラノに建てた老人ホームだが、この映画では、そこに住む引退したオペラ人たちが代わる代わる登場し、自らの華やかなりし過去やオペラの全盛期を回想し、歌い、演じる。
そして、彼、彼女らがほとんどカメラを見ないことにも明らかなように、本作ではかなりの程度まで、シュミットの演出/コントロールがなされている。よって、『トスカの接吻』はまさしく、現実と虚構の境界線上でくり広げられる、ドキュメンタリー・フィクションなのだ(こうしたフィクション性――極言すれば<やらせ>――は、多かれ少なかれ、あらゆるドキュメンタリーに含まれるものだ)。
この映画の最大の魅力のひとつは、“ヒロイン”を
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