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 アトピー性皮膚炎が世に知られるようになったもっとも大きな原因は、ステロイド外用薬の副作用が世に知られるようになったことではないかと考えられる。

 ステロイド外用薬とは、副腎皮質ホルモンを人工的に合成し、軟膏やクリームなど、皮膚に塗る形にしたものである。ステロイドは皮膚の炎症を抑える働きをもっているため、炎症が起こっているところに塗るとあっという間に皮膚がきれいになる。その効果が著しいため、アトピー性皮膚炎治療にはほとんどの場合、ステロイド外用薬が使用される。

 日本でステロイド外用薬が臨床で使用されるようになったのは1954年だが、それ以降、ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎治療にずっと使用され続けてきた。しかし、1980年代までは、ステロイド外用薬を使っていたアトピー性皮膚炎患者ですら「ステロイド」という言葉も知らなかったし、ましてやこの薬に副作用があることもほとんど知られていなかった。

 今でこそ「ステロイド外用薬はあまり使ってはいけない」、と考える人が多くなったが、1990年代初頭くらいまではそうした意識は一般的に薄かったようで、化粧ノリがよくなるからとステロイド外用薬を毎日顔に塗っていたという人もいた(筆者が行ったアトピー性皮膚炎患者へのインタビューより)。

「ニュースステーション」のステロイド報道

 1990年代になって、徐々にステロイドという言葉と、ステロイドの副作用についての情報が一般に知られるようになっていく。

 そのなかでもっとも影響力が大きかったのが、1992年、当時久米宏がキャスターをつとめていた「ニュースステーション」のステロイドに関する特集である。

 番組では、「魔法の薬 ステロイド剤の落とし穴」というタイトルで、ステロイド外用薬の副作用や、副作用が起こるメカニズムについて解説がなされた。

 実際、ステロイド外用薬の副作用については、現在でも「どういった症状や現象を副作用とするか」という点で議論が分かれているのだが、この特集では、白内障による失明、抵抗力が落ちヘルペスなどの感染症に感染しやすくなること、長期的に使用していると体液がしたたり落ちるような酷い身体症状が出ること、精神変調をきたすことなどが副作用として取り上げられていた。

 そして、久米宏は、番組で紹介された人たちは、最終的にはステロイド外用薬の使用を止めることで症状がよくなっていったことを紹介し、ステロイドは習慣性を帯びると危険なので、最後の最後まで使わないように、 ・・・ログインして読む
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筆者

牛山美穂

牛山美穂(うしやま・みほ) 早稲田大学高等研究所助教(医療人類学、文化人類学など)

早稲田大学高等研究所助教。千葉県生まれ。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了後、イギリスに渡りUniversity College London医療人類学コース修士課程修了。早稲田大学大学院文学研究科博士号(文学)取得。専門は医療人類学、文化人類学、ジェンダースタディーズ、カルチュラル・スタディーズ。現在の主な研究テーマは、医師と患者の関係、自助グループ、アトピー性皮膚炎をめぐる問題。主な著書に『ステロイドと「患者の知」:アトピー性皮膚炎のエスノグラフィー』(新曜社、2015年)など。

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