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韓国で女性監督ということ――『マルティニークからの祈り』 パン・ウンジンさんに聞く

西森路代 フリーライター

 現在、韓国映画界は好調で、2013年には映画界全体の観客動員数が2億人に達した。人口がおよそ5000万人なので、一人が一年に映画を4回程度見ていることになる。

 そうなると、企画で冒険もできるし、出資も集まる。映画『トガニ 幼き瞳の告発』や『怪しい彼女』を監督したファン・ドンヒョク監督はオリコンスタイルのサイトのインタビューで、「映画界に活気がない時期は企画段階で否定的な意見が出やすく、興行がうまくいっているときには、肯定的なマインドでさまざまな企画に挑戦できます」と語っていたが、今まさに韓国の映画界は後者の時期だろう。

パン・ウンジン監督拡大パン・ウンジン監督
 そんな韓国映画界で、女優としても活動しながら、『容疑者X 天才数学者のアリバイ』や、8月29日から公開の『マルティニークからの祈り』を監督したパン・ウンジンが来日したということで、現在の韓国映画界の状況や、韓国で女性監督であることに関して、たっぷり話を聞かせてもらった。

 まず気になるのは、なぜ女優から監督へという道を選んだのだろうということだ。

 「最初から演出をしたいという大きな夢があったわけではなくて、あくまでも演技を向上させたいという気持ちが先にあったんです。なぜならいつもカメラの前で撮られている立場だったので、逆に自分がカメラを通して演技しているところを見たら、客観的に映画が見られるようになるのではないかと思ったんです。

 そんな中で、スチールを撮ったり、短編映画に出てみたり、助監督をしたりしていたところ、本格的に自分でも映画を撮ってみたい気持ちになってきたんです。そこで大学院に入って、映画を2本撮りました。

 その後、商業映画デビューまでの準備として5年ほどかかったんですね。それは、しっかり準備がしたかったからなんですが、ほかの方も8年くらいかけている方もいますので、私もどうせ撮るならば、それくらいしっかりと準備がしたいと思っていました。実際に監督になってみたところ、以前よりも映画という存在をさらに愛するようになりました」

 監督は、デビュー作の『オーロラ姫』、『容疑者X 天才数学者のアリバイ』、そして『マルティニークからの祈り』と3作の商業映画を撮っている。これらを撮る上で苦労はあったのだろうか。

 「デビューしてから2本目を撮るまでは、とんとん拍子というわけにはいかなかったんです。契約していた映画もうまくいかなかったり、出資も配給も決まっていた映画が頓挫したり。私としては、1作目を撮ってから2作目が実際に進み始めるまでが試練のときでした。もしかしたら世間からは、1作目の映画がとれたのは、女優のビギナーズラックだったと思われているかもしれない、このままで終わってしまうのかなと思うときもありましたが、最後まであきらめずに撮り続けようと思っていました」

 日本でも公開された『容疑者X 天才数学者のアリバイ』にしても、『マルティニークからの祈り』にしても、この監督のエピソードと同じように、女性が苦境にあっても、決してあきらめない姿が描かれているように思える。

 「この2本の作品は韓国でも強い女性を描いたと言われることが多かったです。危険な状況だったり、困窮している状態の女性を描くという意味では2作品には共通点がありましたね。また、いろんなものを持っているほうの人間ではなく、どちらかというと弱者の側のことを描いているかもしれません。『容疑者』の場合は、女性だからこそ仕方なく隣人の力を借りたものの、姪っ子を守るために強い姿を見せていたと思うし、『マルティニーク』では、ヒロインは経済的に困窮した家庭の中で、子どもを守るために危険を冒します。私自身も強いほうなので、女性の強さを描きたかったのかもしれないですね」

マルティニークからの祈り(c)2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.拡大『マルティニークからの祈り』 (c)2013 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved.
 『マルティニークからの祈り』では、海外で麻薬密輸の疑いをかけられたヒロインが、無罪を訴えて韓国に帰るために奮闘する姿を描いているが、そこで何の役にも立たないのが、韓国の領事館の人々である。

 そんな問題を、ときにはやるせなく、ときにはシニカルに描いている。こうした、権力に対する不信感というのは、現在の韓国映画には共通してみられるテーマでもある。

 「現在の韓国映画の流れを見ると、『10人の泥棒たち』のチェ・ドンフン監督を代表とするブロックバスター級の娯楽作のようなものもたくさんありますし、そういった映画というのは、興行成績もよくて、作品としても完成度も高いんです。

 その一方で、現実的に起こっている問題を映画に反映させたり、社会にうもれた隠された事実を暴いたり、社会的な発言をしていく映画も最近は多くて、例えば『トガニ』の公開がきっかけで、実際に13歳未満の児童への虐待を罰する『トガニ法』のような法律ができたりしているんですね。それを見て国民は怒りを感じるとともに、国民の力で国は動いているんだという勇気をもらえるという状況にもなっています。

 昔は検閲があって、こうした社会性のある作品はなかなか作れなかったのですが、今は作れるようになりました。最近は『弁護人』など、現実を反映した作品がよく作られていますね。そういう動きを見ると、韓国映画界も多様性があって良い状況になっているのかなと思います。

 また、一方では、テレビではドラマやトーク、バラエティなどのエンタメ娯楽番組が多くなって、ドキュメンタリー作品は減っているんですね。だから、映画がその中間を担っているんじゃないかと思います」

 監督自身は、そんな中間を担う韓国映画の役割の中で、どのような作品を作っていきたいのだろうか。

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筆者

西森路代

西森路代(にしもり・みちよ) フリーライター

フリーライター。1972年生まれ。愛媛と東京でのOL生活を経て、アジア系のムックの編集やラジオ「アジアン!プラス」(文化放送)のデイレクター業などに携わる。現在は、日本をはじめ香港、台湾、韓国のエンターテイメント全般について執筆中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)がある。

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