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ベネチア国際映画祭リポート(下)――日本の作品が受賞するためには?

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

 幸いなことに、ベネチア国際映画祭では毎年のようにコンペに日本映画が選ばれている。2012年は北野武監督の『アウトレイジ・ビヨンド』、13年は宮崎駿監督の『風立ちぬ』と続き、今年は塚本普也監督の『野火』が選ばれた。

野火『野火』
 調べてみたら、2002年の北野武監督『Dolls』以降、毎年最低1本は日本映画がコンペに選ばれている。20本前後のコンペに毎年日本映画が選ばれるのは、実は大変なことだと考えた方がいい。

 宮崎駿や北野武が、これまでカンヌやベルリンよりもベネチアを重視してきたことも大きいだろう。映画祭は監督との信頼関係で成り立っている。

 その意味では、塚本普也はベネチアによって育てられたと言っても過言ではない。

 1998年に『バレット・バレエ』を出品以来、今年で7回目であり、コンペだけでも2回目。そのうえ、コンペの審査員も2回やっている。ちょうどカンヌと河瀬直美監督との関係に近いと言えるだろう。

 今回の『野火』は、塚本監督にとっても異例づくめ。プロデューサーが見つからなかったために、完全な自主制作となり、まだ国内の配給会社も決まっていない状況という。内容はこれまでの都会の現代人を描いたものではなく、第二次世界大戦中の兵士たちを描いた時代もの。そして主人公を演じるのは本人。

 現地での評価は、星取表でも新聞でもまさに2つに分かれた。仏「ル・モンド」紙記者は1つ星で、ベネチアを中心とする「イル・ガゼッティーノ」紙記者は4つ星。ベネチアに愛されている監督らしく、総じて地元紙は高い評価だった。

 「イル・ガゼッティーノ」紙は、「金獅子候補」との見出しで、「肉体の強迫観念から出発し、現実を再読する夢幻的な素晴らしい力を見せてくれた」と絶賛。

 一方ミラノが拠点の全国紙「コリエーレ・デラ・セーラ」は「固定ショットと激しいショットの退屈きわまりない繰り返しであらゆる緊張を欠き、暴力や非人間性への考察を放棄している」と酷評。この記者は星取表でも1つ星だった。

 星取表を長年担当しているフランスの「ポジティフ」紙編集長のミシェル・シマン氏は1つ半の星を付けたが、「あの市川崑の傑作があるのに再映画化をする理由がわからないし、そもそも人物造形ができていない。またスプラッタまがいの暴力や戦争の描き方は個人的には不愉快」と私に語った。

レッド・カーペットの塚本監督、ディレクターのアルベルト・バルベラ(右)、リリー・フランキー(左レッド・カーペットの塚本普也監督(中央)とディレクターのアルベルト・バルベラ(右隣)、リリー・フランキー(左隣)=撮影・筆者
 記者会見や囲み取材で塚本監督は、今回は配給会社が決まっていないので、自身が既知のベネチア映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラ氏に直接頼んだということを明かしていた。結果はともかく、監督の個人的な結びつきがコンペ出品を決めたのは間違いない。

 ほかにもいくつかの日本関係の作品があった。コンペ外招待の「神の言葉」はE・クストリッツァやA・ギタイなど世界の9人の監督によるオムニバス。宗教を軸に、さまざまな国の現代の問題を描く。

 日本からは中田秀夫が参加し、「四苦八苦」というタイトルで東日本大地震で両親と妻子を亡くした男(永瀬正敏)のその後を描く。

 当然10分余りの短い作品だが、現在も地震の影響が個人レベルでも続いていることを的確に伝えた映像だった。何よりもこのような国際オムニバス映画に日本の監督に声がかかること自体、これまでにはあまりなかったことだ。

 オリゾンティ部門(長編が18本)に出た韓国のホン・サンス監督の『自由が丘で』は、加瀬亮が主演。

 かつてソウルで日本語を教えていた加瀬演じる森が

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