出口保夫 著
2014年10月30日
イギリスの詩人の評伝が、日本人の著書として出るのは久しぶりのことである。しかもその対象がウィリアム・ワーズワスとなれば、英文学を学んでいる人には見逃すことはできまい。それも400ページを超える大著であり、このロマン派を代表する詩人の伝記としてふさわしいものだ。長年、日本におけるイギリスロマン派の研究をリードしてきた著者の手になる力作である。
この詩人の膨大な作品の中から適切な箇所を選び出し、その引用によって詩人の成長の跡を語らせるのは常道と言えば常道だが、その常道をやってのけるだけの蓄積がなければできないことなのである。
第2に、詩人の生涯を中心に追いかけつつ、同時代のさまざまな人物の姿、時代の移り変わりなどを的確に描き出すことで、この評伝は広がりをもつことになる。あえて言えば、ワーズワスとその時代を描き出したものなのである。
第3に、いや、もっとも重要なのは、これだけの大著が明晰な文章で綴られていることで、それが読者にとっては何よりもうれしい。
著者が慣れ親しんだイギリスでは、もちろん伝記が人気のあるジャンルで、今もそうした趣味は生きている。人間への関心こそが豊かな内容をもつ作品を生み出し、それを読む楽しみが多くの読者によって共有されることで伝統が作られていくのだとすれば、その一翼をになうことになる作品がここにある、と言わなければなるまい。
*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
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