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菅直人の総選挙、ほんとうの密着取材(下)

意思と体力、人間の営みとしての選挙のリアル

中川右介 編集者、作家

 朝、駅前でビラを配っているとき、私は菅直人からは10メートルくらい離れたところにいた。

 菅直人は白いダウンジャケットを着て、駅前に立ち、手をふり、応じてくれる人には握手をしている。週刊誌ふうに書けば、「元総理ともあろうものが寒空の下に立ち、道行く人のほとんどに無視されていながら、手を振っている」となる。これが実態だ。

 厳しいなあ、寒いなあ、と思いながら、私は「おはようございます」「菅直人です」「いまそこに、本人が来ています」と言って、道行く人にビラを差し出す。

JR三鷹駅北口でビールケースの上に立って演説をする菅直人元首相=21日、東京都武蔵野市拡大JR三鷹駅北口でビールケースの上に立って演説をする菅直人氏=2014年11月21日
 50人にひとり、いや100人にひとりくらいしか受け取ってくれない。

 たまに、「がんばって」と言って受け取ってくれる人がいると、本当に、単純に嬉しい。こういうのをやると、街を歩いていてティッシュやらチラシを配っているのとぶつかると、たいがいもらってしまう。

 そのうち、私からは受け取らなくても、その先にいる菅直人当人からは受け取る人がいるのに気づいた。

 ようするに、選挙は、本人がどれだけ多く直接、有権者に接せられるかなのだ。

 政策とか、政権交代とかの「大きな物語」で投票するかどうかを決める人もいるが、それはむしろ、少数派だ。「会ったことがある」「握手した」「写真を撮った」――そんな積み重ねが勝敗を分ける。それが、選挙のリアルなのだ。

 菅直人は初当選時から総理大臣になるまではマスコミも好意的だった。

 浮き沈みはあったが、基本的には追い風に乗っていた。東京の多摩区という選挙区は戦後になって住宅地として発展した地域なので、農村的な濃い人間関係がなく、自分の意思で投票する人が多い。

 そういう浮動層・無党派層が多い地域だったので、マスコミが好意的に報じる菅直人は、選挙でも優位だった。

 しかし、それだけではない。無党派層という組織化されていない人々によってのみ、支えられていたわけではない。もしそうだったら、小泉チルドレンや小沢チルドレンのように2期目は落選しているだろう。

 12回も当選を重ねられるのは、「リアル」を忘れていないからだ。マスコミで華やかに報じられるのと並行して、地道に支持者名簿を作り、固めていく作業もしていた。

 遊説も怠らない。選挙のリアルをよく知っていたからだ。初当選するまでの3度の落選や、多くの地方議員、国会議員の選挙を仕切ったり応援に入ったりした経験から、たとえ総理大臣にまでなったとしても、選挙のリアルを知っていた。何をしなければならないか、何をすればいいか。

 今回も前回も、菅直人はマスコミに言われなくても、いわば動物的カンでこの選挙は危ないと感じたのだろう。 ・・・ログインして読む
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筆者

中川右介

中川右介(なかがわ・ゆうすけ) 編集者、作家

1960年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2014年まで出版社「アルファベータ」代表取締役として、専門誌「クラシックジャーナル」、音楽書、人文書を編集・発行。そのかたわら、クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲などについて、膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる独自のスタイルで執筆。著書は『カラヤンとフルトヴェングラー』『十一代目團十郎と六代目歌右衛門――悲劇の「神」と孤高の「女帝」』『月9――101のラブストーリー』(いずれも幻冬舎新書)、『山口百恵――赤と青とイミテイション・ゴールドと』『松田聖子と中森明菜――一九八〇年代の革命』(ともに朝日文庫)、『戦争交響楽――音楽家たちの第二次世界大戦』『SMAPと平成』(ともに朝日新書)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『角川映画 1976-1986(増補版) 』(角川文庫)、『怖いクラシック』(NHK出版新書)など50点を超える。

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