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[2014年 ポピュラー音楽 ベスト5]

アナ雪、松田聖子……女声がいいです。

近藤康太郎 朝日新聞諫早支局長

 年の瀬。なんていうかこの、世界とソリが合っていないんだな、最近。自分が考えていることと、世間の感じていることの、波長がまるっきり合わない。

 数字でそれが、如実に出てしまう。まじ?  あんたら、こんな詐欺師みたいな「この道しかない」男を信じてんの?  気はたしかなの?  この道はいつか来た道、だよ?  頼むからうそだと言ってくれ。

 まあでも、「選挙結果」という数字で、如実に出ちゃってるんだから仕方ない。自分は、世間とうまくやっていない。認める。

 こういうときは、冬ごもり。テレビなんかつけない。新聞も読まない。好きなCD(レコードの方がもっといい)をかけて、一杯ひっかけて、詩でも読んで、早寝しちゃうんだ。そうして、そんなときの歌は、女声がいいです。男は、くだらない。

(5)「アナと雪の女王」神田沙也加、松たか子ほか

 なにも女性ボーカルばかり聴いていたわけではないが、2014年、女性が書いて女性が歌った曲といえば、日本も席巻したこの映画のサウンドトラックを除いて語ることに、意味はないだろう。

 「ありのままの姿見せるのよ/ありのままの自分になるの」(「レット・イット・ゴー」)

 なにも怖くない、もう自由なのよ。なんでもできる、どこまでやれるか、自分を試したいの。

 これを前提のない自己肯定ととるならば、世の中にすでに十分すぎるほどあふれている、腐れJポップの、いち変種といっていい。

 しかし、「アナ雪」の主要な登場人物のお姫様2人は、いままでのディズニーアニメと決定的に違い、王子様の手助けなく、自らの力で幸福をつかみとる。歌のメッセージを“深読み"し、同性愛の告白と解釈する余地もそこに生じる。

 その正否は、しかし、どっちでもよく、自己解放に「白馬に乗った王子様」はもはや必要でなくなった事実を押さえれば、それでよい。

 英語のオリジナル・サウンドトラックももちろんいいんだが、日本語吹き替え版の感じがよい。妹アナ役の神田沙也加がのびのび。「とびら開けて」など、ライトなレゲエ調から朗々としたデュエットになって、はつらつ。

 姉のエルサ役の松たか子も、声量が必要な難曲の「レット・イット・ゴー」を果敢に歌いこなしている。そりゃ、レコーディング・テクニックで切り貼りしてるんだけど、それを含めて、だ。声の色つやが、この人の値打ち。

(4)「Dream&Fantasy」松田聖子

NHK「SONGS」に出演した松田聖子拡大NHK「SONGS」に出演した松田聖子
 沙也加のお母さん、本家80年代の神アイドル松田聖子も、ある意味、驚きの新譜を出していた。

 「あなたと二人だけアイランド/時間も止まってる楽園」「海辺のパラソル きらめく珊瑚礁/太陽の光 波間に跳ねてる」(「Love Island」) 

 「Dancing Dancing Going to the Wonder Land/ひとときの夢を見させてよ」(「Dancing Dancing!!」)

 圧倒的な歌唱力。やる気あり過ぎのアルバムジャケット。80年代ど真ん中サウンド。ほとんど自らの手になる歌詞の、変わらなさっぷりが、いっそすさまじい。

 成功するしないにかかわらず、アーティストというのは、自己を更新していくことに本能的な衝動を覚えるものだが、ここにいるのは、自己を更新しないこと、変わらないこと、「聖子ちゃん」のままでいることに命をかけている女性だ。

 「時間も止まってる楽園」って、どこにあるんだよそんなもん?  「ひとときの夢を見させて」って、アベノミクスのことなのか?  聴いていると、吐き気さえ催す歌詞世界。全編この調子。

 さすがに気づく。これは、 ・・・ログインして読む
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筆者

近藤康太郎

近藤康太郎(こんどう・こうたろう) 朝日新聞諫早支局長

1963年、東京・渋谷生まれ。「アエラ」編集部、外報部、ニューヨーク支局、文化くらし報道部などを経て現在、長崎・諫早支局長。著書に『おいしい資本主義』(河出書房新社)、『成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか』(水野和夫氏との共著、徳間書店)、『「あらすじ」だけで人生の意味が全部分かる世界の古典13』(講談社+α新書)、『リアルロック――日本語ROCK小事典』(三一書房)、『朝日新聞記者が書いた「アメリカ人が知らないアメリカ」』(講談社+α文庫)、『朝日新聞記者が書いたアメリカ人「アホ・マヌケ」論』(講談社+α新書)、『朝日新聞記者が書けなかったアメリカの大汚点』(講談社+α新書」、『アメリカが知らないアメリカ――世界帝国を動かす深奥部の力』(講談社)、編著に『ゲゲゲの娘、レレレの娘、らららの娘』(文春文庫)がある。共著に『追跡リクルート疑惑――スクープ取材に燃えた121日』(朝日新聞社)、「日本ロック&フォークアルバム大全1968―1979」(音楽之友社)など。趣味、銭湯。短気。

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