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[2014年 映画 ベスト5] (1)

<説明>ではなく<描写>で勝負した映画

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

『Seventh Code:セブンスコード』(黒沢清)
 2時間超の無駄に長い映画が多い昨今、60分で起承転結がきっちりと語られ、しかも強度のサスペンス、肌が粟(あわ)立つようなスリル、そして不意に顔面を殴られるようなハードなアクションが画面を席巻する絶品。文句なしの本年度ベストワンだ。

 また<低体温のどんより感><感情の読めない無表情>という、前田敦子の持ち味を最大限に引き出した黒沢演出にも驚嘆。奥行きを生かした縦の構図も天下一品、ロケ地のウラジオストクの底冷たい空気感もみごとに生け捕りにされている。2014/4/12同/4/14の本欄参照。

『Seventh Code:セブンスコード』の衝撃! 前田敦子をアイドルから女優に変身させた黒沢清の映画錬金術(上)――動線/アクション描写の超美技
『Seventh Code:セブンスコード』の衝撃! 前田敦子をアイドルから女優に変身させた黒沢清の映画錬金術(下)――驚愕の大逆転など

『ニシノユキヒコの恋と冒険』(井口奈己)
 竹之内豊扮する、つかみどころのない稀代のモテ男が超ケッサク。肩の力を抜いて、そこはかとないユーモアを漂わせる井口奈己の映画的描写力は、本作でも絶好調。

ニシノユキヒコの恋と冒険」〓2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会拡大『ニシノユキヒコの恋と冒険』」=2014「ニシノユキヒコの恋と冒険」製作委員会
 また、トリュフォー『恋愛日記』やサッシャ・ギトリ『とらんぷ譚』などにインスパイアされた回想形式が冴えわたる。本田翼らの女優陣も魅力全開。2014/2/25、同/2/28の本欄参照。

ユルーいのに緊張が途切れないラブコメの超傑作、『ニシノユキヒコの恋と冒険』(上)――稀代のモテ男に扮した竹野内豊の超美技、豪華な女優陣の競演
ユルーいのに緊張が途切れないラブコメの超傑作、『ニシノユキヒコの恋と冒険』(下)――超絶な回想形式、カジュアルな幽霊、魅力全開の本田翼など

『ダニエル・シュミット――思考する猫』(パスカル・ホフマン+ベニー・ヤーベルク)
 スイス生まれの異才で超傑作『ラ・パロマ』などを撮った、ダニエル・シュミット監督(1941-2006)の人生と映画をめぐる素晴らしいドキュメンタリー作品(2010:2014年夏のシュミット特集で初公開)。

 蓮實重彦も登場して、シュミットはメロドラマなどのすでに死んだものに美しく<死に化粧>をほどこし、それを幻影としてよみがえらせる人だ、と語るが、涙なくしては見れない本作については、2014/08/06の本欄参照。

スイスの異能、ダニエル・シュミット監督特集が東京・渋谷で開催!(6)――往年のオペラ歌手をめぐる“ドキュメンタリー・フィクション”の絶品、『トスカの接吻』(続)

『グランド・ブダペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン)
 どんなに波乱万丈な冒険譚を語ろうと、どんなに複雑な時制を作中に導入しようと、それらを特定のフォーム――奥行きを欠いたフラットな画面の横移動などの、運動する形式――のもとに拘束・制約するコツをつかんでしまったところに、ウェス・アンダーソンの最大の強みがある。物語構成はもう少しシンプルでもよかったと思うが。2014/7/08の本欄参照。

『グランド・ブダペスト・ホテル』は驚きの連続だ!――またもや炸裂、ウェス・アンダーソンのブリリアントな才能

『フタバから遠く離れて 第二部』(舩橋淳)
 第一部(2012)に続いて舩橋淳が、福島県双葉町の原発避難民が直面する過酷で複雑な現実を、「報道では決して伝わらない人々の声」を掬(すく)いあげつつ、克明に記録/描写したドキュメンタリーの逸品。故郷から離れる/故郷に戻ろうとする、という相容れない二つの決断の葛藤がリアルにとらえられる。第一部については2012/10/26、同/11/01、同/11/06の本欄参照。

フクシマ双葉町の避難民を記録した傑作ドキュメンタリー、『フタバから遠く離れて』(上)――見えないもの・聞えないものを、どう視聴覚化するか
フクシマ双葉町の避難民を記録した傑作ドキュメンタリー、『フタバから遠く離れて』(中)――提示し問いかける記録力、描写力
フクシマ双葉町の避難民を記録した傑作ドキュメンタリー、『フタバから遠く離れて』(下)――被災者たちの<時間>を写しとる映画的意思

+アルファ2本
『やさしい人』(ギヨーム・ブラック)
 2013/11/26の本欄で論じた前作、『女っ気なし』も秀逸だったが、やはりヴァンサン・マケーニュ扮する冴えない中年男の恋愛沙汰を、絶妙な距離感で冷徹かつ散文的に――ロマンチックにではなく――描く本作は、映画作家ブラックのさらなる進化を如実に示している。

 おそらく、フランス・ブルゴーニュ地方の小さな町、トネールの「散文的な」雰囲気によってインスパイアされた(つまりシナリオ・ハンティングされた)と思われる傑作だ。場面が変わるといきなり小ビッチのメロディ(ぽっちゃり顔のソレーヌ・リゴ)が騎乗位でマケーニュにまたがっている、という鮮やかでエロチックなカッティングなどにも一驚。

 ちなみに、パンフレット所載の筒井武文監督の本作についてのレビュー、「あの時間は永遠に自分のものだ」はきわめて精緻な批評的分析でうならされた。

 本作にくらべると、同じく恋愛沙汰=三角関係を描いたフィリップ・ガレルの力作、『ジェラシー』はやや観念的で“抜け"がよくない。いくつかのショットや場面には捨てがたい味があるのだが……。

必見!フランスの新鋭ギヨーム・ブラックの『女っ気なし』――“散文的な詩情”あふれる快傑作

『罪の手ざわり』(ジャ・ジャンクー)
 現代中国の歪み――計画経済から市場経済への移行が生んだ極端な貧富の差など――を背景に、複数の主人公を見舞う悲劇が、血まみれの暴力描写を含む緩急自在の展開で描破される。本作によってジャ・ジャンクーは新境地を開いたと言えよう。2014/06/18、同/06/20、同/06/23の本欄参照。

ジャ・ジャンクー『罪の手ざわり』をお見逃しなく!(上)――現代中国の歪みを照射する社会派バイオレンスの傑作
ジャ・ジャンクー『罪の手ざわり』をお見逃しなく!(中)――衝撃的かつ簡潔な暴力描写
ジャ・ジャンクー『罪の手ざわり』をお見逃しなく!(下)――伝統的な文学・芸能への参照、シュールな奇想と「ネオレアリズモ」的要素の融合など

*見なければよかった映画

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筆者

藤崎康

藤崎康(ふじさき・こう) 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

東京都生まれ。映画評論家、文芸評論家。1983年、慶応義塾大学フランス文学科大学院博士課程修了。著書に『戦争の映画史――恐怖と快楽のフィルム学』(朝日選書)など。現在『クロード・シャブロル論』(仮題)を準備中。熱狂的なスロージョガ―、かつ草テニスプレーヤー。わが人生のべスト3(順不同)は邦画が、山中貞雄『丹下左膳余話 百万両の壺』、江崎実生『逢いたくて逢いたくて』、黒沢清『叫』、洋画がジョン・フォード『長い灰色の線』、クロード・シャブロル『野獣死すべし』、シルベスター・スタローン『ランボー 最後の戦場』(いずれも順不同)

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