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[書評]『薔薇戦争新史』

トレヴァー・ロイル 著 陶山昇平 訳

小林章夫 上智大学教授

複雑な薔薇戦争の歴史を見事に描くもの

 2014年はシェイクスピアの生誕450周年の年だった。これに合わせてシェイクスピア関係の本がいくつか出版されたのは喜ばしい出来事だが、その一つに加えてもいい収穫である。

 ただしもちろん、シェイクスピアそのものを扱った本ではなく、薔薇戦争の歴史を詳細に跡づけたものである。

『薔薇戦争新史』(トレヴァー・ロイル著 陶山昇平訳 彩流社) 定価:本体4500円+税拡大『薔薇戦争新史』(トレヴァー・ロイル著 陶山昇平訳 彩流社) 定価:本体4500円+税
 シェイクスピアの残した歴史劇の中には、イギリス中世の時代、薔薇戦争を主題にしたものがいくつかある。

 もちろんそれらは劇作家シェイクスピアが歴史に基づいて書いたものだが、当然上演用にかなりの創作を交えている。

 たとえば「悪王」リチャード3世の姿がその典型的な例である。残虐非道、目的のためには手段を選ばなかった人物、しかもそれにふさわしく肉体的にも異様な姿として描き出され、これがほとんど定着してしまった。

 だが、現実のリチャード3世はどうだったのか。これには諸説がある。

 おまけにこの男の遺骨が最近発見されたとなると、それをめぐっていろいろな見解が生まれることになり、そのことをきっかけとして、薔薇戦争の時代に目が向けられるようになる。

 ところがここでやっかいなのは、イギリス最初の内戦とされる薔薇戦争の歴史が複雑なために、頭が混乱してしまうことだ。

 人間関係も複雑怪奇だし、誰が誰やらわからないことも多い。舞台で見ると、なお一層わかりにくい。結局その前に歴史の流れを復習し、人物相関図でも作っておかないと、客席で寝込んでしまうのである。

 そこでこの1冊。完璧に整理できたとは言わないが、この本は複雑な歴史と人物関係を明晰に描き出して秀逸。著者の腕前もさることながら、訳者の功績に大いに喝采を送りたい。歴史を読むおもしろさを十分に味わうことができる。高価な本だが、この分野に興味ある読者には必携。

*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。

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 年間8万点近く出る新刊のうち何を読めばいいのか。日々、本の街・神保町に出没し、会えば侃侃諤諤、飲めば喧々囂々。実際に本をつくり、書き、読んできた「匠」たちが、本文のみならず、装幀、まえがき、あとがきから、図版の入れ方、小見出しのつけ方までをチェック。面白い本、タメになる本、感動させる本、考えさせる本を毎週2冊紹介します。目利きがイチオシで推薦し、料理する、鮮度抜群の読書案内。

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筆者

小林章夫

小林章夫(こばやし・あきお) 上智大学教授

上智大学英文学科教授。専攻は英文学だが、活字中毒なので何でも読む。ポルノも強い、酒も強い、身体も強い。でも女性には弱い。ラグビー大好き、西武ライオンズ大好き、トンカツ大好き。でも梅干しはダメ、牛乳もダメ。著書に『コーヒー・ハウス』(講談社学術文庫)、『おどる民 だます国』(千倉書房)など、訳書に『ご遺体』(イーヴリン・ウォー、光文社古典新訳文庫)ほか多数。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです