林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト
フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日常の光景だったイラストが失われた…
残念ながらフランスは、イスラム過激派の「テロ標的国」だ。昨今は地下鉄や繁華街では警備体制が強化され、美術館や図書館といった公共施設での荷物チェックも厳重になってきていた。そんななかで発生したのがシャルリー・エブド紙への襲撃テロである。
白昼堂々、2人の男が警備員とドアコードを備えた建物に難なく侵入し、ものの数分間で12人を射殺した。過去40年間に起きた国内テロの中で最大規模というが、なんだか現実味が湧かないくらいに、あっけなく実行された感がある。国民のショックは計り知れない。
事件そのものは、パリに住んでいればかなり身近な話だ。
世界一の観光地と宣伝されるが、そもそもパリは町のサイズが小さい。地下鉄の駅の間隔も狭く、少し歩くと何駅分も歩いていたりする。
森をのぞいたパリ市街地の面積は86.99キロ平方メートル。これは東京都世田谷区の面積58.08キロ平方メートルの1・5倍にも満たない広さだ。
今回襲撃されたシャルリー・エブドの編集部は、パリ右岸の市内中心部に位置する。
お洒落で個性的なショップが集まり、女性誌がこぞって取り上げる北マレ地区に近い。世界史のバスティーユ襲撃事件で有名なバスティーユ界隈とも言える。市内に住んでいれば「ああ、あの辺りか」と、土地勘も働きやすく、だから誰にとっても身近に感じる事件だったと思う。
それにこの襲撃事件と連携して警察官が射殺されたパリ南郊のモンルージュや、スーパー立てこもりの舞台となったパリ20区のポルト・ド・ヴァンセンヌも、シャルリー・エブド編集部からそれぞれ南に6キロ、東に4キロの近距離にある。容疑者らが射殺されるまでの間は、なんとも言えぬ緊張感に包まれていた。
だが容疑者が射殺されたら事件解決かと思いきや、全く違った。パンドラの箱が開いたようである。
この数日のうちだけでエッフェル塔を臨むトロカデロ広場、主要ターミナル駅の北駅、観光地のオペラ座やモンパルナス界隈の映画館など、市内だけでも不審者や不審物の目撃情報が後を絶たず、あちこちで一時閉鎖が相次いでいる。
フランス各地ではイスラム教関連施設への報復も激しさを増している。テロの脅威が一気に現実味を増す中、モヤモヤした重苦しさや緊張感が、現在進行形のものとしてフランス社会を覆っているのだ。
市民生活にも色んな形で影響が出ている。
1月といえば冬のセールの時期。
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