2015年01月27日
前稿でも触れたように、近年もフランスでコンスタントに作品が配給され続けている監督は、是枝裕和、河瀨直美、黒沢清、北野武の4人に限られるだろう。
彼らはフランスの映画市場において、作品の存在感をある程度感じさせられる「観客数10万人」という大台を突破できる数少ない現役監督たちだ。世界の三大映画祭での受賞歴を持ち、何より「撮り続ける」という強靭な意志でイバラ道をくぐり抜けてきた奇跡的な存在である。
『誰も知らない』『歩いても歩いても』は16万人、カンヌ映画祭の審査員賞を受賞した 『そして父になる』は38万人の観客を集めた。
とんがった作風ではなく、「家族」というユニヴァーサルな題材をドラマとしてきっちり見せるので、一般のお客さんも世界観に入り込みやすく、満足感が高い。
もともとは相当に辛辣な設定(子供置き去り事件、事故で亡くなった息子の命日に集まる家族、子供取り違え事件)を選んでいるはずだが、ドキュメンタリー畑出身らしく、押し付けとは無縁の誠実な視線のおかげで品の良さすら漂っている。
フランス人が追い求めたがる日本的な「品の良さ」みたいなものと、繰り返し現れる「家族」というテーマが、是枝映画の中に「小津」の再来を見せるのかもしれない。いずれにしても、是枝作品の絶妙なバランス感覚は、日本映画が海外に進出するヒントとして、もっと研究されてもよいだろう。
現役の映画監督の中では、一般の映画ファンから最も知名度の高いのが北野武だ。『HANA-BI』でベネチア映画祭の金獅子賞を受賞し、パリ・カルティエ現代美術財団の個展も話題となった北野は、スケールの大きな才人として尊敬されている。
フランスの芸術文化勲章を何度も受賞している彼に、ここでは「コマネチ!」やタケちゃんマンの影はない。フランスではこれまでほぼ全作品が公開され、『菊次郎の夏』に至っては観客42万人のヒットを記録。特に00年代は「世界のKITANO」を発見しようとする気運が高まった時期であり、『みんな~やってるか!』まで配給されていたのはちょっと驚いたものだ。
2012年には、映画の殿堂シネマテーク・フランセーズで回顧上映が組まれた。配給作品の中では、『トウキョウソナタ』が観客10万人、WOWOWの連続ドラマを、前編・後編に分けて劇場公開された『贖罪』が、シリーズ合計で14万人を集めている。
これまで数多くの作品が配給されてきたが、『回路』『LOFT ロフト』『叫』のような十八番のホラー作品より、フランスでは『トウキョウソナタ』や『贖罪』のような人間ドラマ寄り作品の方が観客が入りやすいのかもしれない。
現在、独仏共同出資で文化に強いテレビ局Arte出資の下、フランス人俳優を起用した新作『La Femme de la plaque argentique(銀盤の女)』を準備中と聞く。今後のさらなる海外展開が楽しみなひとりだ。
27歳でカンヌ映画祭の新人監督賞に当たるカメラ・ドールを、史上最年少で受賞した早熟の人、河瀨直美は、
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