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サザン桑田さんのお詫びと「○○妻」の息苦しさ

「コンプライアンス」が跋扈する世の中で

矢部万紀子 コラムニスト

 2014年末、紅白歌合戦を久しぶりに全部見た。中森明菜、中島みゆきという「スペシャル」枠にサザンオールスターズを足したNHKの努力がなければ、たぶんどうということのない紅白になったのだろう。

 NHKはサザンに出てもらうために、彼らの「大晦日年越しライブ」を中継することにした。それだけの話だ。私など、桑田佳祐さんがちょびひげを付けていたことも気づかなかった。

 それが年があけたら、とんでもない事態に発展して、桑田さんと所属事務所アミューズの連名で「『サザンオールスターズ年越しライブ2014』に関するお詫び」なるものが出るにいたった。

 全くもってナンセンスだ、とある人に言ったら、ナンセンスはたぶん死語だと言われた。死語かもしれないが、全くナンセンスだと思う。

 日本を代表するアーティストが自作を歌った。そこに隣国と平和に関する歌詞が入っていた。それだけだ。

 前月にもらった紫綬褒章をどう扱ったかとか、ちょびひげがどうだとかは、アーティストが自分の判断でしたことであり、それが仮にはしゃぎすぎだったとしても、それも含めてアーティストなのだから、世間に向けて釈明したり、ましてや「お詫び」などしたりすることでは全くない。

 桑田さんが好き好んで、お詫びしたとは到底思えない。そのような事態に追い込まれてしまったのだと思う。そうせざるをえなかった。そのキーワードは、「コンプライアンス」だと私は思う。

 2013年夏、サザンが5年ぶりに活動を再開したとき、大変なお祭りだった。新曲「ピースとハイライト」を「反日的だ」などという論調はまるで聞かず、いろいろなメディアが特集を組み、サザンを歓迎した。

 桑田さんはその「歓迎の波」に乗りながら、一方でさめた視線を自分とその周囲に向けていたのではないだろうか。

 このたびの騒動で私が真っ先に思い出したのは、あの夏、WOWOWの番組で桑田さんが最後に放った一言だった。

 「コンプライアンスをぶち破ろう」

 桑田さんのその台詞で、サザンコンサートの有料放送を宣伝する番組は終わったのだ。

 その番組は、復活サザンのドキュメントで、桑田さんの「非マッチョさ」が伝わるファンにはうれしい無料放送だったのだが、最後に突然、「ぶち破ろう」が飛び出した。前後の脈絡、まるでなし。笑いながらの〆台詞。

 私は単純に痛快さを感じていたが、今にして思えば、「コンプライアンス」なるものへのアラームが、彼の中で鳴っていたのだろう。

 彼が当時、どこまで自覚的だったかわからない。だが2015年、はっきりその正体がわかったはずだ。「コンプライアンス」なるものが跋扈する時代。「ぶち破ろう」と言った桑田さんも、敗れてしまった。抗えなかった。

○○妻拡大ドラマ「○○妻」(日本テレビ系)より
 1月から始まったドラマの中に「○○妻」というのがある。

 「家政婦のミタ」の遊川和彦脚本のちょっと変わったドラマで、

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。最新刊に『雅子さまの笑顔――生きづらさを超えて』(幻冬舎新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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