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[20]第5章「夢見られた学園(2)」

学園ドラマと少女の恋

菊地史彦

 舟木一夫が「学園ソング」から脱却し、もう少し大人っぽい青春歌謡を歌い始めた頃、石原慎太郎原作のテレビドラマ『青春とはなんだ』の放映が始まった。山並みを望む「森山高校」を舞台に、夏木陽介演じる英語教師が、ラグビー部を指導しながら、生徒たちのさまざまな問題に取り組む「学園ドラマ」の先駆けである。

 1965年10月からスタートし、2クール26話の予定だったのが、好評につき延長され、翌年の10月まで放映された。

夏木陽介さん 1967年拡大夏木陽介=1967年
 教師の野々村健介(夏木)は、アメリカ帰りで、着任早々地元のヤクザと立ち回りを演じる「熱血教師」である。その後もことあるごとに、田舎町の旧弊と闘い、次第に生徒や町の人々の信頼を得ていく。

 生徒には、矢野間啓治・木村豊幸・柴田昌宏が演じるラグビー部劣等生トリオと、岡田可愛・豊浦美子・土田早苗の“お喋り三人娘”が、シンメトリーを形成するように配置され、その中に、酒井和歌子などのゲストが、家庭問題や恋愛問題を抱えて登場するという演出が多かったと記憶している。

 放映当時、中学生だった私は、毎週、このドラマを楽しみにしていた。

 特に印象に残っているのは、高橋紀子が出演した15話「みんな恋人」だ。東京から転校してきた洋子(高橋)は、母親がアメリカ人と再婚したことに傷つき、半分グレかかっている。修学旅行で東京へ向かう一行の中で、唯一東京を知っている洋子が、男子生徒を誘ってボウリング場へ赴くシーンがあった。

 そこの喫茶室で彼女が注文するのがコークハイ(!)。いかにも都会風の高橋のルックスと不良ぶったしぐさは、強い印象を残した。

 洋子は、その後も教師の野々村に迫ったり、男子とゴーゴーを踊ったりという素行不良のせいで、岡田可愛演じる勝子と大激突するが、これを機に態度を改め、米国の母の許へ向かう決心をする。

 教師も熱いが、それに負けないくらい熱い生徒がいる「学園」は、こうして、逸脱しかかった者を連れ戻し、介抱し、勇気づける装置だったのである。

 「熱血教師」の系譜も、このドラマから始まっている。遠く夏目漱石の『坊つちゃん』(1907)にも、『青い山脈』(1947)の島崎雪子にもこの性向は萌しているが、スポーツと英語の技能を備え、正義感の強い男性教師というキャラクターは、夏木陽介に発するものだろう。

 本作に続く学園シリーズ、『これが青春だ』(1966~67年)、『でっかい青春』(1967~68年)で竜雷太が演じた大岩雷太や巌雷太、『進め!青春』(1968年)で浜畑賢吉が演じた高木進、『飛び出せ!青春』(1972~73年)で村野武範が演じた河野武、『われら青春!』(1974年)で中村雅俊が演じた沖田俊……。彼らは、時代の変化に応じて少しずつ風態を変えたものの、熱血教師の「核」については、特段の変更を加えることはなかった。

 それは一言でいえば、「学園」は他の権威や権力に依存しない自立的な空間であり、ルールやマナーを知らない闖入者が現れた場合は、熱意を持つ教育者はその自立性を実力で守護するべきだ、という確信である。

 つまり、熱血教師とは、「学園」の守護者であり、その使命のためには、学内外の有力者や権力者とも闘うことを辞さない存在なのである。

 しかし、このような暗黙のルールは、同じ学園ドラマの中で、いともかんたんに破られていったのである。

 1970年に放送が開始された『おくさまは18歳』は、教師と生徒が実は夫婦であるという設定の学園ドラマだった。 ・・・ログインして読む
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筆者

菊地史彦

菊地史彦(きくち・ふみひこ) 

1952年、東京生まれ。76年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、筑摩書房入社。89年、同社を退社。編集工学研究所などを経て、99年、ケイズワークを設立し、企業の組織課題やコミュニケーション戦略を中心にコンサルティング活動を行なう。現在、株式会社ケイズワーク代表取締役。国際大学グローバル・コミュニケーションセンター客員研究員。著書に『情報文化の学校』(共著、NTT出版、1989)、『「幸せ」の戦後史』(トランスビュー、2013)がある。