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[2]ネット動画はパロディを大衆化する

イスラム国の「クソコラ」、「つまようじ」動画少年、「あったかいんだからぁ♪」

太田省一 社会学者

 「イスラム国」を名乗るグループが日本人二人を人質にとった事件は、状況が二転三転した末に最悪の結果になった。

 そこで何がどういう経過をたどってこのような結果に至ってしまったのかについては、事柄の性質もあって今の時点ではまだ明らかでないことも多い。その点については今後の報道等にまたなければならないだろう。

 ただひとつ事実として言えることがある。

 それは、直接の発端がネット動画であったことだ。しかもその動画は、誰もが閲覧できる動画共有サイトにおいて公開された。

 「イスラム国」を名乗るグループが、こうした動画共有サイトやSNSなどネットのツールを使って情報戦を仕掛けていることはよく知られている。

 今回の動画公開の狙いも、対政府への要求だけでなく、それを見る可能性を持つ不特定多数の人間に向けてプロパガンダを行い、不安や恐怖心を植え付けようということがあるに違いない。

 これが欧米諸国であれば、正面からそれに対抗する動きが起こるかもしれない。実際、先ごろ風刺画をきっかけにフランスで起こった連続テロ事件では、「表現の自由」を掲げた100万人規模とも言われる大規模な抗議デモがあった。

 ところが今回日本では、ちょっと奇妙な展開になった。既に報道もされているように、公開された動画を素材とした「クソコラ」(「クソみたいなコラージュ」の略語、「クソ」は「ひどい」「雑」といったような意味である)が続々とネット上に出回ったのである。

 例えば、動画に出てきた人間の顔をアニメキャラや有名人に置き換えたり、背景をディズニーランドなどにしたりした加工画像がそれである。しかもそれらはSNS上で「#ISISクソコラグランプリ」とハッシュタグを付けられ、「イスラム国」を名乗るグループの関係者と見られるアカウントに大量に送りつけられた。

 これに対しては、人命が奪われるかどうかの瀬戸際に不謹慎すぎるという批判が当然沸き起こった。

 だが一方、大量のクソコラ送付と時を同じくして当該アカウントが凍結されることが起こったため、このことを「表現の自由」の行使として肯定的に報じた海外メディアもあった。

 確かに、クソコラは一種のパロディ表現と取ることができる。その意味では、フランスの風刺画がそうであったように、権威や権力に対抗する手段であるかもしれない。少なくともそう受け取った海外メディアがあったことになる。

 しかし、そのような見立てはどこかずれていると私は感じる。パロディと言えばその通りだが、敢然と権威や権力に対峙する格好いいものではない。そこには「クソみたいな」と自ら称するように、自虐の意識があるからである。 

武蔵野署に入る少年を乗せた車/つまようじ動画、19歳逮捕20150118拡大「つまようじ動画」事件で、武蔵野署に入る少年を乗せた車=2015年1月18日
 同じようなことが、世間を騒がせた「つまようじ」動画の少年についても当てはまるように思う。
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筆者

太田省一

太田省一(おおた・しょういち) 社会学者

1960年、富山県生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビ、アイドル、歌謡曲、お笑いなどメディア、ポピュラー文化の諸分野をテーマにしながら、戦後日本社会とメディアの関係に新たな光を当てるべく執筆活動を行っている。著書に『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論――南沙織から初音ミク、AKB48まで』(いずれも筑摩書房)、『社会は笑う・増補版――ボケとツッコミの人間関係』、『中居正広という生き方』(いずれも青弓社)。最新刊は『SMAPと平成ニッポン――不安の時代のエンターテインメント 』(光文社新書)、『ジャニーズの正体――エンターテインメントの戦後史』(双葉社)。

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