メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

 さて多くの映画祭が苦境に立たされる中、ひとり気を吐いているのがカンヌ映画祭である。

カンヌ映画祭の様子拡大カンヌ映画祭にて=2014年、撮影・筆者
 世界最大級の映画祭カンヌは、フランスにおける邦画の運命を、ある程度決めてしまえる巨大な力を持つのだ。

 実際、是枝裕和、河瀨直美、黒沢清、北野武の四強は、すべてカンヌ映画祭での成功が、フランスでの成功にそのままつながってきたような監督だ。

 是枝は『誰も知らない』『そして、父になる』、河瀨は『萌の朱雀』『殯(もがり)の森』、黒沢は『トウキョウソナタ』で受賞を果たしており、かつカンヌの常連であることが、世界的に監督としての箔をつけている。

 北野はヴェネティア映画祭との関わりも深いが、すでに『ソナチネ』の時点でカンヌの「ある視点部門」にも選ばれていたし、コンペ参加も何度かある。

 カンヌの特別企画として世界の巨匠と並んで短編制作を依頼されるなど、現役日本人監督の中では、最も一流監督のお墨付きをもらっているとも言えそうだ。

 基本的にカンヌは、自分たちが一度認めた才能を、長いスパンで見届けて応援していこうとする意思が強い。

 それは良いことだとは思う。映画祭がある監督を応援することは、映画祭として「この監督を認めた」という責任を引き受けることでもある。芸術に対するある種の立場を表明することで、映画史の更新を促すことにもなるだろう。映画祭からの励ましは、芸術家として常に孤独な監督たちの心の拠り所にもなる。

 だが問題がないわけではない。

カンヌ映画祭に参加するダルデンヌ兄弟拡大カンヌ映画祭の会見に出席したダルデンヌ兄弟(左から3番目と右から2番目)=2014年、撮影・筆者
 例えばベルギーのダルデンヌ兄弟。彼らはすでにパルムドール2回、グランプリ、脚本賞、主演男優賞、主演女優賞、エキュメニック賞特別賞を各1回づつ受賞している。

 ちょっと獲りすぎではないか。私などはダルデンヌ兄弟作品がコンペにあるのを見るだけで、「またか~」とテンションが一気に下がる。

 彼らの作品は素晴らしいが、カンヌで出会うには既視感が強すぎて面白くない。できればカンヌは他の映画祭にワールドプレミア権を譲り、ダルデンヌ兄弟は紅白のサブちゃんのように一度卒業し、他の監督に場所を譲ってほしい。

 彼らにとってカンヌは全てを理解してくれるツーカーな仲だろうから、新作を撮れば最優先でコンペに入る “ぬるま湯状態 "にもなっている気がする。

 そもそも彼らの映画は、映画祭で賞を取りやすいタイプの映画でもあるのだ。大きな御世話だとは思うが、ここはいったん他の映画祭で新たに揉まれてくれた方が、映画監督として新しい刺激も受ける気がするのだが。

カンヌ映画祭『2つ目の窓』の公式会見に臨む
河瀬直美監督(左から三番目拡大カンヌ映画祭の『2つ目の窓』の公式会見に臨む 河瀨直美監督(左から3番目)=2014年、撮影・筆者
 邦画に関してもやはり、同じ監督ばかりを贔屓している感があるのは否めない。カンヌは新しい日本人監督を積極的に発見するべく努力しているようには到底思えず、登場する日本人監督の名は予定調和でかなり物足りない。

 もちろんカンヌに対して新しい日本人監督を、はじめから「カンヌのコンペに出せ!」などと無理難題は言わない。

 だが

・・・ログインして読む
(残り:約1347文字/本文:約2556文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

林瑞絵の記事

もっと見る