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岡崎京子作品の主人公が戦う敵はなんなのか

ゆきこは28歳で、私は54歳なのに

矢部万紀子 コラムニスト

 岡崎京子さんを愛読したのは、2000年になってからだ。家の本棚に岡崎さんのコーナーがあり、そこにある10冊ほどの著書を今回再読したのだが、すべて奥付が2000年の最初あたりで、半分は岡崎さんによる「あとがき」がついていて、半分はそれがなく、かわりに「事故からの回復途上なので、家族に同意を得て連載のまま出版する」といった注釈がついていた。

 いずれにしろ、私はすごく遅れた読者なわけで、なぜ私は岡崎さんの著書にひかれたのか、よく考えたのは今回が初めてだった。

世田谷文学館で開催中の作品展拡大世田谷文学館で開催中の岡崎京子展「戦場のガールズ・ライフ」(~3月31日)
 そして行き着いたのは、結局薬局放送局(という表現がわりと好きだったんだー、岡崎さん、ということも今回気づいた)、世田谷文学館の岡崎京子展のタイトル「戦場のガールズ・ライフ」だったのだ。

 岡崎さんの描く女子たちは、みな戦っている。

 代表作のひとつだろう『pink』は、昼はOL、夜はホテトル嬢をしながらマンションでワニを飼っているユミちゃんが主人公。帯に「愛と資本主義。」とある。

 ひとりの男性との笑えて悲しい関係が描かれ、同時に体でお金を稼ぐさまがこれまた笑えて悲しく描かれるのだから、なるほど「愛と資本主義」である。

 それより前に描かれた作品で「BOY MEETS GIRL」を描いた傑作とされる『ジオラマボーイパノラマガール』には、体を売る胸のふくらんでいない11歳も出てくる。

 体をお金に替えるシーンはほかにもたくさん描かれ、岡崎作品の核のひとつだ。「売春」を入り口に「女子の戦い」を描きたいという強い意志なのだろう。

 だが、岡崎作品の体を売る女子たちが戦うのは、クラシカルな「貧困」では無論ない。

 『pink』のユミちゃんの実家は、財産目当ての後妻である継母がいるほどのお金持ち。かなり広めのマンションにひとり暮らしするユミちゃんが夜の仕事をしているのはひとえに、食欲旺盛すぎるワニのえさ代稼ぎが目的だ。『ジオラマボーイパノラマガール』の小学生がお仕事するのは、放課後、英語のお稽古に行くまでの時間のみ。

 ユミちゃんは、セックスした後に説教する客に「何だこいつ、バカか?」と頭でつぶやき、11歳の少女は高校を中退したラブリーなお客さんに「私、売れっ子なのよ」とお小遣いをあげる。

 主導権を握っているのは必ず女子――岡崎さんの強い意図が伝わってくる。

 過激さがなく、良い子のみんなにも読みやすい作品に、『くちびるから散弾銃』がある。

 高校の同級生3人の女子(編集者とデパートガールと雑貨店店員)が集まってはおしゃべりしている――洋服のこと、クリスマスのこと、テレビのこと、恋愛のことetc.――いわばそれだけの作品だ。だが、おしゃべりを「散弾銃」と表現した段階で、それはやはり「戦いの書」という意志表明だろう。

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筆者

矢部万紀子

矢部万紀子(やべ・まきこ) コラムニスト

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。宇都宮支局、学芸部を経て、週刊誌「アエラ」の創刊メンバーに。その後、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理、書籍編集部長などをつとめる。「週刊朝日」時代に担当したコラムが松本人志著『遺書』『松本』となり、ミリオンセラーになる。2011年4月、いきいき株式会社(現「株式会社ハルメク」)に入社、同年6月から2017年7月まで、50代からの女性のための月刊生活情報誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長をつとめた後、退社、フリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)。

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