2015年03月05日
2014年11月10日に急逝した「高倉健」の写真集やムックが12月から近所の書店の平台を占領しはじめました。
新刊だけでなく、再版本も含まれています。2月9日になって文春MOOKが出ました。満を持しての真打ち登場、といった印象でした。
『永久保存版 高倉健 1956~2014』(文藝春秋編 文藝春秋)
それからオールナイトのナントカ侠客伝だか残侠伝だかに何度も行きましたがいつも爆睡。館内の大声(歌舞伎みたいですよ、ホント)でたまに目が覚めると、決まって大暴れの後。健さんはおとなしく警察に捕まっており、正直しょぼいなあ、と思いました。
『遥かなる山の呼び声』にはしびれましたが、4度目くらいの鑑賞から「『シェーン』に似てないか?」と思いはじめ、とうとうハマり続けることはありませんでした。
しかし関連本の山が気になります。そこでいま書店の店頭にある16冊を買ってみました。3軒ハシゴしたのですが、ぜんぶで2万円以上かかったと思います。重い。まさにオトナ買い。
Aランク……『永久保存版 高倉健 1956~2014』(文藝春秋)
Bランク……『キネマ旬報 2015年1月下旬号 No.1680』(キネマ旬報社)、『「高倉健」という生き方』(谷充代著、新潮新書)、『健さんからの手紙』(近藤勝重著、幻冬舎)、『高倉健インタヴューズ』(野地秩嘉著、プレジデント社)、『高倉健と任侠映画』(山平重樹、徳間文庫)
Cランク……『追悼 高倉健』(週刊朝日増刊)、『永久保存版 高倉健』(サンデー毎日増刊)、『ユリイカ 俳優・高倉健』(青土社)、『高倉健と菅原文太 ここに漢ありけり』(石田伸也著、徳間書店)
Dランク……『健さん』(石黒健治写真集、彩流社)、『俳優 高倉健 映画大全』(ファミマ・ドット・コム)、『映画俳優・高倉健 その素顔』(遠藤努著、音羽出版)、『高倉健 孤高の生涯 上巻・任侠編/下巻・流離編』(嶋崎信房著、音羽出版)
Eランク……『追悼 高倉健 男のケジメ』(大川隆法著、OR books)
Bランク以上の本(雑誌)は価格以上の価値があるような気がします。ただランキングはすべてわたし個人の感想なので、お願いですから実際にご自身で中身を確認してから買ってください。
Cランクに入れた『ユリイカ』は過度の期待を寄せていなければAランクでしょう。高倉健に「少年性」を感じたという渡辺武信さんの特集トップの論考は、天才的映画嗅覚の持ち主ならではの文章でした。
同じくCランクの「週刊朝日増刊」は、なんと価格が680円。新潮新書より安い。コストパフォーマンス抜群です。
Dランクの『健さん』は石黒さんのファン、もしくは健さんの熱烈なファンならSランクでしょう。わたしはどっちでもないし、文章が皆無だと物足りないタチなので……。
Eランクの『高倉健 男のケジメ』にしても「高倉健の霊言」には仰天するしかないですが、奇書としてカルト的人気を呼ばないとも限りません。
で、オタク心をもっとも満たしてくれたのが、今回ご紹介する文春MOOKです。一見、雑然としたつくりです。いくらムックとはいえ、雑誌ではないのだからもうちょっときちんと目次をつくってもいい、と思わせます。
全体をクロニクルに整理しているわけでもないし、「ポスター・コレクション」という見出し文字のあとに6枚しかポスターがない(わずか3頁)。
文章も基本的に文春系雑誌の再録です。
しかし、巻頭の養女の小田貴さんの書き下ろしの手記が非常に端正で簡潔。ネットでは「突然出現した養女の存在に騒然」とか書かれていたので警戒していたのですが(百田尚樹『殉愛』の残像もあるし)、印象ががらっと変わりました。
つづいて「文藝春秋」1月号で読んでいた健さんの手記も、この闘病記の直後に再読するとまったく読後感が変わります。
盟友・降旗康男監督のインタビューを挟んで、沢木耕太郎さんの再録があり、「またか」と思いましたが、夢中で読んでしまいました。毎月読んでいる「文藝春秋」でわずか2週間前に読んだものですが、特集本のなかにあるとオモムキが異なりますね。沢木さんの文章はどうしてこんなにコーフンを誘うんだろう。いわゆる美文ではないと思うのに。
つづくのが「健さんと私」。順不同(ですよね? 但し書きはないですが)で各界の著名人の健さんとの交流が綴られます。
いちばん面白かったのが石倉三郎さん。健さん賛美が並ぶなかで、大部屋俳優イジメに興じる健さん像が新鮮でした。また周知なのかもしれませんが、石倉三郎さんの「倉」が高倉健さんからとったものとは知りませんでした。
つづいての坪内祐三さんのおなじみ自分語りから始まる傍若無人な作品ガイドが面白かったし、吉田豪さんの「健さん名言録」が巷間かまびすしい「ホモ疑惑」を健さんご本人の弁で痛快にぶちかましてくれてスカッとしました。江利チエミさんの悲しい流産や、彼女の姉のとんでもない放火騒動など、健さんの苦悩の根本はこの論考ですべて理解できるような気がします(他の関連本は、もっとも気になるこの問題に頬被りしすぎるノダ)。
横尾忠則さんのセンチメンタルな「憂魂、高倉健」にしても、豪さんの「健さん名言録」を読んではじめて腑に落ちるというもの。
プロデューサー角谷優さんによる『南極物語』秘話で、なんと記者会見の前日まで健さんの出演は決まってなかった、というのも驚愕でした。
そう、本書は、評論家による感想文ではなく当事者による手記(キャスター国谷裕子さんの「17秒の沈黙」手記もヨカッタ!)やインタビューがあふれかえっていて、まことにスリリングなのでありました。
しかしなんといっても本書の白眉は6人の映画通による「全205作品鑑賞ガイド」にあります。
とりわけ川本三郎さんの「高倉健演じるやくざは、いつも……詫びていた。いわば、自分を否定するやくざ」「やくざ映画は、もうひとつのプロレタリア文学」というくだりなど、「こんな短い書き下ろしコラム(2枚強)で、健さんの秘孔を突いていいんかい!」と思わず叫びたくなりました。
205作品すべてを観ている鈴木敏夫さんや初期作品だけを執拗に解説する春日太一さんに対しては、「あんたらビョーキだよ!」(賛辞です)と叫びたくなりました。
要すれば雑然としたところもまた魅力的、というところでしょうか。
健さんの出演作品一覧がなぜか巻末でなくど真ん中にある違和感を除けば、税込1404円はその倍くらいの価値がゆうにあるように感じました。
それにしても、高倉健と同じ11月に逝去した菅原文太の追悼本が少なすぎませんか。『高倉健と菅原文太 ここに漢ありけり』と『追悼 菅原文太 仁義なき戦い』(ともに石田伸也著、徳間書店)くらいしか見当たりませんでした。
マスコミは早稲田出身者が多いんじゃないのか? 明治の高倉健に負けてっぞ。
オールナイトの『仁義なき戦い』は寝ないで見通した身にとっては、非常に寂しい限り。もうじき刊行の『現代思想臨時増刊号 菅原文太 反骨の肖像』に期待します。
*ここで紹介した本は、三省堂書店神保町本店4階で展示・販売しています。
*「神保町の匠」のバックナンバーはこちらで。
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