2015年03月06日
ここまでフランスにおける邦画の不振について、中規模映画祭の苦境や日本人監督の発掘に意欲的でないカンヌ映画祭などに触れ、語ってきた。だが邦画不人気は、なにも不景気やカンヌ映画祭のせいだけではないだろう。現代日本映画そのものの質の問題だって、避けては通れないのだ。
筆者は2014年末にナント三大陸映画祭を訪れたが、今回は例外的に、コンペティション部門に邦画が1本もなくて大変がっかりした。
邦画との比較に出された韓国映画だが、実際コンペ10本の中には、ホン・サンソ『自由が丘へ』とチャン・リュル『慶州(キョンジュ)』の2本が選ばれ、前者は最高賞に当たる「金の気球賞」を獲得した。
そしてナント三大陸映画祭の後には、師走のパリで開催されていたKINOTAYO映画祭にも足を運んだ。「KINOTAYOとはなんぞや?」と思うかもしれないが、映画祭の最高賞の名称「ソレイユ・ドール(金の太陽=KINNOTAIYO)」を、フランス人に言いやすく変えた言葉だそうだ。
KINOTAYO映画祭は2006年にスタートし、フランスでは現在唯一、日本映画に特化した貴重な映画祭となっている。
コンペには9作品が登場し、最高賞のソレイユ・ドール(観客賞)は山田洋次『小さいおうち』、フランス人批評家が選ぶ批評家賞は榊英雄『捨てがたき人々』、キヤノン最優秀撮影賞は坂本あゆみ『FORMA』が受賞した。
本映画祭はかなり独自の運営方法をとる。パリでは日本文化会館をメイン会場に上映場所が計3カ所あるほか、近郊の町ロワシー=アン=フランス、ヴォレアルに加え、サンマロ、カンヌ、カンヌ近郊のルカネ、メッス近郊のマルリーといった地方都市にも巡回上映を行う。
11月末から12月末まで、パリと近郊を含むイルド=フランス地域圏で約1カ月開催した後、年明けに地方上映を実施するというように、映画祭全体の期間が長いのも特徴的だ。
ボランティアの多大な努力あってのことと想像するが、この不況の中でよく持ちこたえている映画祭だと思う。
本年度の観客数は映画祭そのものが終了していないので不明だが、会場のひとつであるパリの映画館ゴーモン・オペラ・プルミエでは、14年比で40%増しになったと報告されている。
本年度の映画祭は、とりわけ話題作と秀作をバランスよく集め成功していた。
ベルリン映画祭で最優秀女優賞を獲得した山田洋次『小さいおうち』、米アカデミー邦画代表に選ばれた呉美保『そこのみにて光り輝く』に加え、黒沢清『セブンス・コード』、青山真治『共喰い』など、映画ファンが目を引くセレクションが光った。
だが今回、目を引く話題作が入れやすかったのは、裏を返せば、話題作でさえフランス配給が決まらないという日本映画の苦境の反映でもあり、手放しで喜べないことだろう。
本映画祭の実行委員会副会長を務めるのは、『TOKYO EYES』『NOVO/ノボ』などの監督作で知られるジャン=ピエール・リモザン。
今年は監督業の合間に、140本の邦画を見て選出作業に加わったリモザンに、「ぜひ辛口で良いので新しい日本映画の印象を教えてほしい」とお願いしてみた。
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