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ピケティ『21世紀の資本』に抜け落ちている視点

「マルクス的」だが、「マルクス主義的」ではないということ

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

 トマ・ピケティの『21世紀の資本』(2014年12月刊、みすず書房)が、売れている。税込5940円の大著がすでに実売10万冊を超えているというのだから、これは一つの「事件」と言っていい。

 発売前から評判になっていたため、この種の本としては思いきった冊数を仕入れたにもかかわらず、早くから品切を起こしてしまった書店が相次いだ。地方の書店でも、3桁の販売数を積み上げた店が何軒もある。この、決して安くもなく700ページに及ぶ経済学の翻訳書がなぜこれほど売れるのだろう?

ピケティ氏の経済書「21世紀の資本」=東京都中央区の八重洲ブックセンタ山積みした書店も多かった=東京都中央区の八重洲ブックセンター
 まず言えるのは、議論が明確でたいへん分かりやすいことだろう。

 「富む者は益々富み、貧しい者は更に窮する」という現状分析は、誰もが実感、納得できるものだ。近代経済学には、富裕層が豊かになれば、やがてそれ以外の層にも「したたり落ちる」という「トリクルダウン」の主張があるが、今やほとんどの人は、そんなことを信じてはいない。

 徹底したデータの裏打ちも、本書の強みである。

 誰もが実感していることだが、実際のデータによって確信へと変わる、「やっぱりそうだったか?」という読後感は、何よりもその本の信頼性を高め、評判を上げる。

 インターネットが普及し、IT技術の進歩によって、さまざまな分析や意思決定が、収集され整理された膨大なデータによってなされる今日にあって、『21世紀の資本』は「時代の子」であると言える。

 そうした巨大なデータの集積を扱っていながら、数学や計量方程式がほとんど出現せず、深い専門知識がなくても読みこなせるのが魅力であるとする評者も多い。経済学の専門書でありながら、歴史や文学が参照されていることも、本書に読みやすさと信頼を与えている。

 そして、歴史分析や現状分析だけにとどまらず、ピケティが「富裕税」という具体的かつ明快な提言を行っていることが、より多くの読者の手を本書に伸ばさせたと思われる。富む者に累進的に課税し、格差を是正すべしという提言は、誰にも分かりやすく、大方の納得のいくものである。

 だが、強みは常に裏返せば弱味となる。主張が明確であればあるほど、明確な反論を産み出す。

 分かりやすさは、抽象の所産である。そもそもデータが具体的な現実の数値化という抽象である。それぞれの層の具体的な現実の多様性は捨象されている。「低所得者の現状に関してはそう関心のないピケティ」という批判が生じる所以であろう。

 格差社会を是正するための対案として税制改革だけでは不十分だとも言われ、そもそもグローバル化が進んだ現代世界で「富裕税」の理念を実現するのは、「世界国家」を目指すような空想的な目標ではないか、との指摘も多い。

なぜこれほど売れたのか?

 おそらく最大の問題は、まさに『21世紀の資本』を

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