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[24]第3章 文学篇(純文学)(4)

外来文化の強い影響

香取俊介 脚本家、ノンフィクション作家

舶来品崇拝

 島国という事情のせいか、日本人は外からやってくるものに対して異常に興味をしめし、これを崇める傾向が強い。古来、海の彼方から運ばれてくるものは、いわば神さまからの贈り物のようなもので、これを取り入れ土着のものとうまく融合させ、日本独自の文化を築いてきた。

 文学作品においても、海外渡来のものをヒントにして再構成したものが多い。『雨月物語』をはじめ明治以前につくられた怪談の多くは中国の古典から想を得ているし、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』など一連の作品は中国に原典がある。もっとも、単なる真似ではなく、巧みに日本伝統の文化と融合させ、独自の作品に仕立てているが。

 江戸時代、多くの読者を獲得した滝沢馬琴の伝奇小説『南総里見八犬伝』も中国の『水滸伝』から想を得たものである。

 安房国里見家の伏姫と8人の若者(八犬士)を主人公とする長編伝奇小説であるが、設定からしてエロ・グロ・ナンセンスの趣である。こういう作品に庶民は一喜一憂したのである。

 外来文化を寛容にうけいれ、これに旧来の文化をまぜあわせ独特の文化を創り上げる点で、日本ほど長けた民族はいないといっていいくらいだ。明治維新後は中国にかわって欧米諸国の文化が流れこんだが、これをも巧みに換骨奪胎した。

『変態性欲心理』の影響

 大正にはいってまもなく、性欲を真っ正面からあつかった「精神医学」の本が海外からもたらされた。クラフト・エビングの『変態性欲心理』である。

 エビングはサディズムやマゾヒズム、フェティシズムの研究者で、同時代の作家レオポルト・フォン・ザッハー・マゾッホの名から「マゾヒズム」という用語を造語した研究者としても知られる。

 1840年ドイツで生まれ、普仏戦争に医師として従軍したあと、精神医学の教授としてストラスブールに招聘され、以後、国立精神病院院長などを歴任したほか、ウィーン大学の精神医学科の主任教授を務めた。梅毒、催眠、てんかん研究や犯罪精神医学の先駆者である。

 『変態性欲心理』の原題は「性的精神病質」とでもいったもので1913(大正2)年に刊行された。性的問題で悩み、傷を負った患者からエビングが直接聞き取り、まとめたものである。

 著書にあるマゾヒズムの典型例「Z氏、50歳」のケースを紹介しよう。

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