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[1]「わいせつ」と「逮捕」の向こうにあるもの

「表現の暴力性」について冷静に議論できる前提が揺らいでいる

北原みのり×竹信三恵子

拡大対談する北原みのりさん(右)と竹信三恵子さん

 作家の北原みのりさんが昨年12月、「わいせつ物陳列」の疑いで、突然、逮捕された。子どもや女性のポルノがいたるところに出回っているこの国でなぜ、という疑問や批判が噴き出し、安倍政権を批判したせいではとの憶測までが飛び交った。あの逮捕は、一体なんだったのか。4カ月たったいま、北原さんとジャーナリストの竹信三恵子さんが改めて語り合った。その中で浮かんできたのは、わいせつ、表現の自由、留置場、闘い方などをめぐる「閉塞ニッポン」の奇妙な横顔だ。 二人の対談を4回にわたってお届けします。

曖昧なイメージで物語が定着していく

 竹信 今回の北原さんの逮捕、結局何が罪になったのか、よく分からないんですよ。新聞を読んでも、やっぱりよく分からなくて。

 北原 この対談の企画書を見せていただいたんですが、その企画書、事件の内容が間違っていた(笑)。ショックだったけど、でもじゃあ、私が何の罪に問われたかということがはっきり記してある報道があったかというと、ほとんど見当たらなかった。

 竹信 なかったでしょう、実際。

 北原 ええ。私はこれまでについて、反省も含めて考えさせられた。世間的に見たらそんなに違いはないと思うことでも、当事者には大きい。それでも曖昧なイメージで、事件が物語られ定着していくように感じました。

 竹信 ざっと事件の概要を教えてもらえますか?

 北原 そもそもは、2014年7月にろくでなし子さんが、自分の性器の3Dデータを頒布したということで逮捕されたんです。そのときに、警察が関係者先をガサ入れするんですが、私のお店でなし子さんがアルバイトしていた関係で、私のお店にもガサが入った。

 竹信 ろくでなし子さんは何の罪だったの?

 北原 3Dデータのわいせつ物頒布、です。彼女が作品制作の資金を集めるため、性器のデータを支援者に配ったそうなんです。

拡大北原みのりさん

 ガサ入れのときに、なし子さんの作った「デコまん」という作品も押収されました。作品だけでなく、給与明細からプライベートなメールのやり取りまで、なし子さんに関するものはすべて。なし子さんは、逮捕の4日後に釈放されるんですが、その5カ月後、12月3日になし子さんが再逮捕、私も逮捕された。

 デコまんというのは、なし子さんが自分の性器を石膏でかたどって、そこにいろんなデコレーションを施している作品です。なし子さんに頼まれて私の店に頼まれて飾っていたんですが、19個置いていたうちの3つがわいせつだとして、私は「わいせつ物陳列罪」の容疑で逮捕されたんです。

 竹信 企画書はここが間違っていたんですよね。ただ置いていただけなんでしょう? 販売はしてなかったのよね?

 北原 販売してないです。飾っていただけ。ただ、お店ということで「公然」になってしまう。自宅に置いてあるなら、別に何の問題もないんですけど。

 実は逮捕前、11月に警察から呼び出し状を受け取っていました。弁護士に相談し、警察にも出頭すると連絡していた矢先に逮捕されて(※参照リンク=『週刊朝日』の対談)。

 竹信 そうだったんですか。

司法の言葉という壁

 北原 逮捕後、私が「黙秘している」って報道されましたよね。それを後で知って驚きました。黙秘をしたつもりはなかったんですよね。

 警察には「弁護士さんが来るまで待っていてください」と伝えていたんです。逮捕状に、なし子さんと共謀してデコまんを置いたとなっていて、「共謀!? そんなにすごいことした!?」と。「共謀」ということの意味がよく分からなかったので。

 竹信 普通の人が聞くと、なんだか壮大な悪の陰謀のように聞こえますよね。

 北原 そうなんですよ。すぐに来て下さった村木一郎弁護士に話を聞いたら、なし子さんが勝手に置いたわけでもないし、私が無理やり置いたわけでもない。話合って置いたなら共謀です、と言われて。司法の言葉ってそうなるんです。それで「そこを争っても仕方ないから、共謀は認めてください」と言われたので、そうかと。そこからは警察に話をしているんですよ。時間にしたら、1時間か2時間だけ「待って下さい」と言ったのを「黙秘」と報道されて。

 竹信 「待って」と「黙秘」とは、全然イメージが違う。

 北原 もしその時の状況を現すなら、「熟考中」か「言葉を失い中」。普段私たちが使っている言葉と、司法の言葉って全く違いますよね。

 司法の言葉って、やったのか、やってないのかしかない。二者択一の選択を迫られる。さらには手錠をかけられて逮捕されたという非日常の中で思考しなくちゃいけない。これは冤罪を生むなと思いました。

 竹信 逮捕、となると一応、手錠をかけるからね。逮捕の条件は「逃亡のおそれがある」こととされているから、手錠は一種のお作法ですよね。でもそのお作法がものすごく侮辱的。

拡大竹信三恵子さん

 私が知っている北原さんは、論者であり、お店のオーナーであり、文筆家だったわけですよ。それがいきなり報道で、本名で、アダルトショップ経営者というレッテルを張られ、手錠をかけられ、逮捕されて、写真撮られてニュースに流れる。まったく違う人のように知らされることが、本当に気持ちが悪かった。

 北原 私も、ろくでなし子さんの最初の逮捕のとき、そう感じたんです。自分の好きなことをやっていた知人が、ある日「自称芸術家」として、性に関して変なことをやっている女というイメージで報道される。本当に気の毒だと思った。警察にも、メディアにも怒りを感じました。

 竹信 そうですね。

本当に大きなダメージ

 北原 だから、私がどう報道されるかは予行演習できていたようなものなんだけど、実際にやられると、本当にダメージが大きい。時間をかけたって、なかなか回復できない。そもそも、逮捕の段階で名前を出す先進国って少ないんですね。顔写真を報道する国も少なくて。その上、日本の留置場のシステムも、心を壊すようなシステムで、人権上すごく問題がある。

 竹信 身柄を拘束するって、人に危害を加えたり、証拠を隠滅したりする凶悪な人を隔離するイメージですが、特に最近は、本当にそうなの?といいたくなるような逮捕が増えているような印象がありますよね。たとえば、厚労省の村木厚子さんの逮捕なんか典型的な例なんですけど、「逮捕」のハードルがどんどん低くなり身近になっているような気持ちにさせられます。

 北原 異様ですよね。

 竹信 私もこんなこと言ったら何かで捕まるかなとか、いつか逮捕されるかもしれない、そんなことすら思ってしまう。端的に言えば、北原さんは、お店に作品を置いていただけで、売ってもいないということでしょ。それが逮捕されて、あんなふうにメディアに書きたてられたりするんだなと、改めてびっくりしました。

 村木さんの逮捕のときの報道を使って、私は学生にメディアの授業をすることも多いんです。逮捕されたときの写真と記事と、その後冤罪となってからの記事を対照させると、学生はみんな「ああっ」と驚きますよ。

 北原 そうでしょうね。

 竹信 逮捕時には、村木さんが通そうとしてた法案に反対する集会やデモに参加したらその後連絡が途絶えたことを挙げて「目的を持つと手段を選ばない人なのかな」という談話が載ったりするわけ。でもそれは、官僚としてはよくある態度で、村木さんが逮捕された郵便割引制度の悪用事件とは何の関係もない。結局、印象操作なんですよ。

 私も記者だったからわかるんですが、上司から事件を補強する材料をさがせと言われると、ネット検索みたいに悪いことだけが見えてきてしまうんですね。これに気づいて、おかしいと思わないといけないと、学生には教えているんですが。

ネット社会でも個人情報は警察情報そのまま

 北原 メディアの人にこの話をすると、例え個人の人権を奪うことをしても、「報道の自由」の重みを語られる。メディアに関わる人にはジレンマのあることだと思います。でも、これだけネット社会になった時に、まだ容疑者の段階で全ての個人情報を警察情報のまま出す姿勢について、考えてほしい。
ネットでは、ロリコンの性表現を規制しろと言っていたフェミニストが逮捕された、自分で自分の首をしめたんだ、みたいなことをさんざん書かれていました。

 竹信 フェミニストとして、北原さんは、女性の生きにくさにつながる人権侵害の表現はやめてほしいといってきたわけでしょう。それをメディア規制に賛成したと一括りして自業自得っていう論調っておかしいですよ。

 北原 でも、自業自得って声は、多かったです。表現の暴力性については考えていかなくてはいけないと思うし、民主主義であれば、「表現のルール」を話し合うことも民主主義じゃないかと思うんです。でも、それを語ることすら難しい。

 竹信 昔から、女性が言葉による暴力を指摘したり、人権侵害にあたる性表現まで自由勝手にやっていいものではない、とか言ったりするたびに、ものすごい批判を浴び続けてきていますよね。

 北原 とても不自由だと思います。たとえば慰安婦の問題にしても、何か言うと激しい言葉の暴力を受けるから、「今は言わないでおこう」と選択する人も多いと思う。「表現の自由を守れ!」と拳をあげるのは簡単ですが、「表現の暴力性」について冷静に議論できる前提が揺らいでいるように感じます。

 竹信 今年1月に起きたフランスのシャルリー・エブド事件では、「表現の自由」を掲げて、首相までデモ行進しちゃったじゃないですか。でもそんなに単純な話じゃないと思う。

 北原 表現の自由ってそもそもなんだったのかと考えると、権力に対しての言葉だったはず。個人や、フェミニストに対して言う言葉じゃないはず。

表現の中には社会の権力関係がある

 竹信 表現の中に、その社会の権力関係があるんだという部分が、理解されてないですよね。フランス社会の中でのイスラム教徒は、ある意味、弱者。そこをきちんと押さえないと、おかしなことになる。

 北原 もちろんフェミニストも一枚岩ではないですよね。少し前、フェミの知人から連絡もらったんですけど、その人が、「あなたのように表現の自由をすべて認めないないフェミニストが、自分の首を絞めている。ロリコンは私も気持ち悪いと思うけれども、気持ちの悪いものも共存して許していかないと、自分の表現の自由も奪われる。逮捕されるのは、結局女なんだよ!」と泣かれました。

 竹信 それはまた、北原さんが逆に慰めてあげたくなるシチュエーションだ……。

 北原 そうなんです。おかしいな、と思っていることをおかしいと言えない社会の方がおかしなことだよって、私は思いますけど。そもそも幼女に対して、性欲や暴力行為をファンタジーとして許している社会がどれだけあるのかということを、もっと考えていいんじゃない? って言ったんですけど。こういう状況になるのって、「表現の自由」が批判を許さない権威を持っちゃったということですよね。

 竹信 そうですね、表現の自由って言われると何も言えなくなる状態は、もはや転倒ですよね。

 北原 私たちが勝ち取ってきた権利だったものが、「表現の自由があるんだから黙れ」と使われる。そんなのは表現の自由じゃないでしょう?

 だからこそなんですけど、メディアの責任は本当に大きい。現場の人には考えてほしいです。今回の逮捕で、「表現の自由を犯すな!」という記事は多かったけれど、どんな表現がどのように犯され、なぜそれが女性差別なのか、事実をもとに丁寧に論考しているような論を、私は読んでいません。そもそも警察発表のまま報道するのって、どうなの? と思います。私自身が事件を自分の視線で書いて物語ってきた書き手として、発言する立場として、考えていかなくてはいけない問題だと思っています。

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筆者

北原みのり×竹信三恵子

北原みのり×竹信三恵子 

北原みのり 1970年生まれ。津田塾大学を卒業後、日本女子大学大学院で教育心理学を専攻(中途退学)。1996年、フェミニズムの視線で運営する海外のショップに影響を受け、女性向けアダルトグッズストア「ラブピースクラブ」をたちあげる。著書に『さよなら、韓流』(河出書房新社)、『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版)、『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)、共著に『奥さまは愛国』(河出書房新社)など。 竹信三恵子 和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。WEBRONZA筆者。