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 1月につづいて、歌舞伎興行のレポートを記す。

 この間に、坂東三津五郎と中村小山三が亡くなった。三津五郎は中村勘三郎と同学年で、勘三郎急逝の後は昭和30年代生まれの世代のリーダーとなるべき人だった。小山三は現役最長老で、94歳での大往生だった。

 おめでたい話としては、1月から4代目中村鴈治郎の襲名披露興行が始まった。

襲名披露のお練りをする四代目中村鴈治郎さん(中央)ら成駒家一門=27日午前、東京・浅草20150227拡大襲名披露のお練りをする4代目中村鴈治郎さん(中央)など成駒家一門=2015年2月27日、東京・浅草
 1月と2月が大阪松竹座で、3月は休み、4月は歌舞伎座での襲名披露となった。

 歌舞伎座は、尾上菊五郎、松本幸四郎、中村吉右衛門、片岡仁左衛門、中村梅玉ら大幹部がほぼ全員揃って、新しい鴈治郎を迎え、正月についでの大一座となった。

 大勢の役者が出て、さらに鴈治郎が主役のものが二つ、口上を兼ねた『芝居前』もあるので、ひとりずつの出番は少なかった。

 東京での襲名披露にあたり鴈治郎が選んだのは、大阪でも演じた『吉田屋』の伊左衛門と、大阪では演じなかった『河庄』の紙屋治兵衛で、どちらも初代鴈治郎が得意としていた『玩辞楼十二曲』のひとつ、すなわち「家の藝」である。

 『吉田屋』では父・坂田藤十郎が相手役の夕霧を勤めた。藤十郎は83歳で、さすがに出演時間が短くなっている。『河庄』では梅玉と中村芝雀が相手役を勤めた。一族では、弟の中村扇雀が、『玩辞楼十二曲』のひとつだが40年ぶりの上演となる『碁盤太平記』の主役・大石内蔵助を勤めた。

 鴈治郎の長男の壱太郎は、『碁盤太平記』『石切梶原』『河庄』『石橋』と4演目で重要な役を勤め、初代から数えて5世代目であることをアピールした。扇雀の子の虎之介は『河庄』『石橋』に出た。

 襲名なので「家の藝」を見せるのは当然といえば当然だが、鴈治郎が主役を張れるレパートリーがそう多くないのも事実だ。

 襲名披露興行が終わった後、鴈治郎が歌舞伎界でどういうポジションに就けるのかは、見えない。同世代の勘三郎、三津五郎がいなくなったいま、『鴈治郎』という大きな名跡は今後リーダーになっていい名なのだが……。むしろ、息子の壱太郎のほうが平成世代のなかで一頭地を抜きつつあり、その将来性を改めて認識させた。

 大幹部たちは舞踊の『六歌仙容彩』と『芝居前』に出ただけだったが、幸四郎は『石切梶原』で主役を勤めた。息子の市川染五郎も『碁盤太平記』『河庄』『石橋』に出て、存在感を示した。鴈治郎家と幸四郎家が目立つ興行となった。

 染五郎の1月以降を確認すると、1月は歌舞伎座に父・幸四郎と共に出て『金閣寺』で主役を勤め、他にも2演目。2月は博多座の花形歌舞伎で座頭となり『伊達の十役』で10役を奮闘。3月は歌舞伎座に戻り『菅原伝授手習鑑』の通しで武部源蔵と松王丸と、大役が続いている。

 父と一緒に出る歌舞伎座でもいい役がまわり、花形中心の公演ではリーダーとして主役と、どの劇場でも恵まれた環境にある。

大役が続く菊之助

 毎年4月のみの興行だが、四国こんぴら歌舞伎大芝居も今年で31回目となる。

 今年は「菊五郎と左團次抜きの菊五郎劇団」の座組(この二人は歌舞伎座に出ている)。繰り上がって中村時蔵が座頭となり、尾上菊之助、尾上松緑、尾上松也、尾上右近、中村梅枝、坂東亀三郎、坂東亀寿ら菊五郎劇団の花形が藝と美を競った。

 菊之助は『伊勢音頭恋寝刃』『御所五郎蔵』で、どちらも立役の主役。最近、女形が少なくなっているのは、当人が将来の菊五郎を見据えて立役のレパートリーを重視しているからだろうが、この劇団に、梅枝と右近という、若く美しい女形が二人も育ってきたからでもあろう。

 染五郎同様に、菊之助も正月から大役が続いている。

 1月は国立劇場で菊五郎劇団の『南総里見八犬伝』。2月は歌舞伎座に出て『関の扉』の小野小町姫と傾城墨染と、『一谷嫩軍記』の〈陣門・組打〉の小次郎と敦盛。3月は歌舞伎座の『菅原伝授手習鑑』で桜丸。実父・菊五郎と義父・吉右衛門という二人の大幹部に引き立てられる立場となり、最も恵まれた環境にある。 

公演の成功を祈願して手を合わせる尾上松也さんら7人の歌舞伎役者=東山区拡大公演の成功を祈願して手を合わせる尾上松也さんら7人の歌舞伎役者=2015年3月1日、京都市東山区
 松緑は1月に国立劇場の『八犬伝』に出た後、2月は菊五郎劇団を代表するようなかたちで、大阪松竹座の鴈治郎襲名披露興行、3月は歌舞伎座の『寺子屋』での武部源蔵を勤めた。菊之助ほどではないが、彼も恵まれている。

 知名度が高くなってきた松也は、テレビのバラエティ系番組によく出ているので、軽薄なイメージももたれ、ふざけているとの批判もあるようだが、ちゃんと歌舞伎への出演も続いている。

 バラエティに出るのは歌舞伎公演の宣伝を兼ねてのものが多く、そこまでしないと客が来てくれないとの危機感の現れであろう。

 松也の今年をふりかえると、1月は浅草歌舞伎で座頭となり、自分より少し若い平成世代を引っ張った。2月は博多座で染五郎の相手を勤め、3月は浅草とほぼ同じメンバーで京都・南座の花形歌舞伎で座頭となり、『鳴神』『弁天娘女男白波』の大役を勤めた。

 しかし、4月のこんぴら大歌舞伎で菊五郎劇団に戻ると、菊之助、松緑、さらには亀三郎、梅枝、右近ら御曹司組の次のポジションになってしまう。この後は、6月から8月は帝国劇場で東宝ミュージカル『エリザベート』に出演する。ダブルキャストで皇后暗殺者・ルキーニに挑戦する。 (つづく)

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筆者

中川右介

中川右介(なかがわ・ゆうすけ) 編集者、作家

1960年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2014年まで出版社「アルファベータ」代表取締役として、専門誌「クラシックジャーナル」、音楽書、人文書を編集・発行。そのかたわら、クラシック音楽、歌舞伎、映画、歌謡曲などについて、膨大な資料から埋もれていた史実を掘り起こし、歴史に新しい光を当てる独自のスタイルで執筆。著書は『カラヤンとフルトヴェングラー』『十一代目團十郎と六代目歌右衛門――悲劇の「神」と孤高の「女帝」』『月9――101のラブストーリー』(いずれも幻冬舎新書)、『山口百恵――赤と青とイミテイション・ゴールドと』『松田聖子と中森明菜――一九八〇年代の革命』(ともに朝日文庫)、『戦争交響楽――音楽家たちの第二次世界大戦』『SMAPと平成』(ともに朝日新書)、『歌舞伎 家と血と藝』(講談社現代新書)、『角川映画 1976-1986(増補版) 』(角川文庫)、『怖いクラシック』(NHK出版新書)など50点を超える。

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