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[3]留置場の中で分かる日本の人権感覚

中国人、タイ人、ベトナム人…、都合よく使われる外国人労働者の見えにくい実態

北原みのり×竹信三恵子

「あなた何人?」、アジア系が多い留置場

 竹信 北原さんが留置場に入ったら、アジア系の人がものすごく多かったんでしょう?

 北原 そうなんですよ。房は私含めて4人いたんですが、そのうちの二人が20代の中国人でした。あとは私と同じくらいの年齢の日本人。で、入ってまず聞かれたのが、「あなたは何人(なにじん)?」だった。私が入ってくることを知って、みんな「次は何人が来るんだろうね」と話していたそうです。「ごめん、日本人で」っていう気持ちにちょっとなりました(笑)。

 竹信 その質問、おもしろいですよね。

拡大対談する北原みのりさん(左)

 北原 初めて留置場に入って、やっぱり怖くて、どんなところだろうと不安だったんです。でも、みんな優しかった。女の人って、お互いに緊張をとくために、自然におしゃべりをするんですよね。私も房の子に「何やったの?」と聞かれたから、「わいせつ」って答えたんです。そうしたら「わいせつって何?」と。同じ部屋にいた日本人女性が「エッチなことだよ!」って教えてあげたり(笑)。そういう会話をすることで緊張がほぐれていったし、留置場のシステムがひどい分、同じ立場にいる女たちは仲良くなるしかないんだな、と思いました。

 竹信 中国の人たちは不法滞在で?

 北原 そうです。一人は農業をやっていて、一人はクリーニング屋さんで捕まったと言ってました。それで、「交番に捕まったのがとっても悔しい」と。

 竹信 職務質問で捕まったということ? なんでそれが悔しいんだろう。

 北原 そう、職質です。交番とか制服を着た警察を見ると、普通は不法滞在の子は避けるらしいんです。なのにうっかり制服を着た警察官に捕まってしまった。「めっちゃ恥」だそうです(笑)。

 竹信 そうなんだ、そういうプライドがあるのね。

 北原 日本語が流暢ではない子が、他のまったく日本語が話せなかったり、ほとんどしゃべれない中国人の子たちの通訳をしてあげたりしていました。違う房の子には、ちょっと大きな声で、今日起きたことなんかをわっとしゃべって、情報交換をしていたり。私が入った湾岸署は、一番外国人が多いとも聞いたんですが、留置場にいた半分は外国人だったんじゃないかな。これって結構ショックだったんですが、なんでなんだろうと、ぜひ竹信さんに聞いてみたかったんです。

日本に都合のいい外国人労働力

拡大竹信三恵子さん

 竹信 今の日本では、外国人労働力が必要不可欠ですから、必要な人たちに来てもらっているはずなんですけれども、その一方で、不法就労として法律的に取り締まれるような仕組みがあるんです。しかもその仕組みは日本での需要に都合のいいようにできている。

 つまり、外国人労働力が必要なときには、取り締まりを緩める。けれども何らかの事情で、たとえば労働力が余ってきて追い出したい場合や、治安対策を強める理由がほしくて外国人犯罪をクローズアップしたいような場合とかは、摘発を強化すれば増えるんですよ。交通違反の「ねずみ取り」に似てますね。外国人犯罪が増えたというような統計って、意外と、人為的なんですよね。

 北原 そうなんですね。

 竹信 実際、外国人犯罪が増えたというから統計を見てみると、「不法滞在」と呼ばれる超過滞在が大半だったりすることも多い。以前、ある集会で会ったイラン人の男性労働者が、その会場にたどり着くまでに3回警察に職務質問を受けたと言っていました。外国人犯罪に注意を呼びかける報道が増えたとき、公園で子どもを遊ばせていただけのアジア系外国人のお母さんが警察に通報されてしまったと聞いたこともあります。

 「秋葉原無差別殺傷事件」が起きたときは、若くてフリーター風のバックパックを持っている日本人男性が警察に止められたそうですが、「危ない」と世間が思う人たちが、固定観念から選択的に拘束の対象になりやすい、ということでしょうか。

 北原 外国人とみるや、危険な人たちとして機械的に職務質問していることもあると思う。

 竹信 北原さんと同じ部屋だった中国人も、農業とクリーニングの仕事をしていたんですよね? この分野も、日本人の働き手があまり来なくて困っている分野ですよね。

 外国人の労働者を、日本政府は色々な枠組みを利用して、日本に来させるんです。ただ、労働力としてはほしくても、住民として受け入れて教育や生活を保障することはしたくないんですね。だから、「研修生」の名前での労働力受け入れが進んだわけです研修生は「研修だから労働じゃない」とされては労働権も保障されない。だから最低賃金が適用されず、時給300円なんて例も多かったのですが、働く側が不満を感じて労使紛争が起きたりすると、「研修が終わったから」と言って簡単に「返品」できてしまう。要するに労働権のない国際的派遣労働者ですね。

最近増えているタイ人、ベトナム人

 北原 ああ、やりそうですね。私が見た感じ、留置場には中国人が一番多いと思いましたが、最近はタイ人とベトナム人が増えてるみたいですね。

 竹信 研修生も、中国やベトナムからきた人は多かったです。「不法滞在」でも研修生でなければ最低賃金は払われますから、逃げ出す人も出てくる。そんな批判から最近は、一応労働権が保証されている実習生が主流になったんですが、悪条件は相変わらずのようですね。

 北原 留置場にあれだけの外国人がいるのに、日本は対応しきれてないし、問題だらけ。たとえば、ベトナム人が増えているのに、

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筆者

北原みのり×竹信三恵子

北原みのり×竹信三恵子 

北原みのり 1970年生まれ。津田塾大学を卒業後、日本女子大学大学院で教育心理学を専攻(中途退学)。1996年、フェミニズムの視線で運営する海外のショップに影響を受け、女性向けアダルトグッズストア「ラブピースクラブ」をたちあげる。著書に『さよなら、韓流』(河出書房新社)、『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版)、『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)、共著に『奥さまは愛国』(河出書房新社)など。 竹信三恵子 和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。WEBRONZA筆者。