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エルンスト・ルビッチ特集、到来!

“ルビッチ・タッチ”、『花嫁人形』など

藤崎康 映画評論家、文芸評論家、慶応義塾大学、学習院大学講師

 東京・シネマヴェーラ渋谷が、またまた凄いことになっている。なんとドイツ出身の名匠、エルンスト・ルビッチ特集が開催中なのだ!

 映画ファン必見の催しだが、サイレント期からトーキー時代にかけてドイツとアメリカで大活躍したルビッチ(1892-1947)は、セックス喜劇の名手として知られている。

シネマヴェーラ渋谷「シネマヴェーラ渋谷」のホームぺージより
 しかるにルビッチは色事を露骨には描かない。ルビッチ艶笑譚(えんしょうたん)の肝は、セックスを暗示やほのめかしによって軽妙洒脱に描く点にあるのだ。そして、そんな彼の作風は“ルビッチ・タッチ"と呼ばれている。

 山田宏一氏の言葉を借りれば、「セックスそのものをえげつなく下品にあけすけに描くのではなく、笑いのオブラートに包んで洒落たタッチで見せる」のが、ルビッチの真骨頂なのである(山田宏一「永遠のエルンスト・ルビッチ」、『ルビッチ・タッチ』<ハーマン・G ・ワインバーグ、宮本高晴・訳、国書刊行会、2015>所収)。なお今回のシネマヴェーラの特集タイトルも、ずばり「ルビッチ・タッチ!」。

 要するにルビッチの十八番(おはこ)は、色恋を洗練された間接描写によって、笑いをまぶしてスマートに描くことだった(サイレント『結婚哲学』<1924、米>は、トーキー時代の『極楽特急』<1932、米>、『生きるべきか死ぬべきか』<1942、米>とならぶ、そのジャンルの最高峰)。

 ただしルビッチは、洗練されたセックス喜劇だけでなく、心温まるヒューマン・メロドラマの達人でもあった(2012/05/07同/05/08の本欄「珠玉の戦争メロドラマ、エルンスト・ルビッチ『私の殺した男』」参照)。

 さらに、これから紹介する傑作『花嫁人形』(1919、64分)のような、ドイツ時代にルビッチが撮ったサイレント映画は、軽妙洒脱さよりも荒唐無稽な身体ギャグがはじけるスラップスティック/ドタバタ喜劇も多い(もっとも題名から察せられるように、『花嫁人形』にもエロチックな要素は仕込まれているが……)。

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