メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

[4]緩く闘うという選択肢がある

お店も、社員の生活も、お客さんも…、身柄を拘束されてどう守るのか

北原みのり×竹信三恵子

 北原 逮捕前に警察の呼び出し状が届いたんです。それでびっくりして村木一郎弁護士に相談すると、「最悪の場合、逮捕もあり得ます」と言われていました。じゃあ逮捕された場合、どう闘うか。村木弁護士が3つのメニューを用意してくれた。

 1、わいせつではないと闘う 2、わいせつだと認めて闘わない 3、私はわいせつとは思わないけど、警察がそう言うなら争いません、と緩く闘う。「緩く闘う」という選択肢は目からウロコだったんですけど、それが一番現実的でした。

 竹信 日本人って、「闘う」となると、きつく闘うことをイメージしがちですよね。たとえば完全黙秘するとか。でもね、闘い方って、それだけじゃないでしょう。

女性向けアダルトショップは現実的な闘い

拡大北原みのりさん

 北原 女性が主体的に性を楽しむために場をつくったわけですけど、そういう場を守る、ということも、私には現実的な闘いでした。だってアダルトグッズショップを潰すのなんて、警察にしてみればとても簡単ですから。

 竹信 労働問題なんかを学生に教えていると、「僕は勇気がないから闘えません」なんて言うんです。でも私は「闘わなくていいから、働くルールを知っていなさい」とまず言うの。労働法とか、本来は身を守れるものがあるということをきちんと知っておいて、闘わなくちゃ生きていけないと思ったときに、それを取り出せるようにしておけばいいんだから。知っているだけで、闘うことの第一歩になるんですよ。

 北原 そうですよね。

 竹信 ブラック企業とか、ブラックバイトとか、若者の労働問題に取り組んでいる若者たちによるNPOがあるんですけど、そこでは「我慢する」「闘う」「逃げる」の3つの方法があると言ってるの。北原さんのおっしゃる緩い闘い方と似ているでしょう?

 北原 確かに似てますね。

拡大竹信三恵子さん

 竹信 「闘う」というのは、弁護士やユニオンを味方にして、会社としっかり対峙する。「我慢する」というのは、会社でひどい目に合ってもとにかく耐える。「逃げる」は、とてもしんどい状況で、でも闘う自信はない、かといって我慢していたら過労死してしまう。

 だったら会社をやめる、会社を休む、つまり逃げると。この3つ目の選択肢は、日本社会ではあまり推奨されてこなかったし、意識もされてこなかったけど、でもこれも闘い方のひとつ。すごく有効に使えると思ったの。

 北原 私、ろくでなし子さんが初めに逮捕されたとき、「私だったら闘わない」と周りに言って、驚かれたことがありました。お店もある、社員の生活もある、お客さんもいる。

 そもそもが、アダルトグッズショップを始めたのは、女性が安全に性を楽しめることをしたかったわけだけど、アダルトの仕事を、保守的な社会でやり続けるだけで、とてもストレスを感じています。そういう意味で、場を守ることも闘いだと想っていました。

 でも、この件では警察とは闘わないよ、と言うとがっかりされました。竹信さんがおっしゃるように、「闘う」ということは、逃げずに勝負することで、それが立派な行為であると思っている人が多いんだなぁ、と思いました。

逃げたら負けなのか

 竹信 じゃあ、認めたら、逃げたら、みんな負けなの? って思いますけどね。私はだらしないので、拷問されて痛かったら、

・・・ログインして読む
(残り:約2176文字/本文:約3529文字)


筆者

北原みのり×竹信三恵子

北原みのり×竹信三恵子 

北原みのり 1970年生まれ。津田塾大学を卒業後、日本女子大学大学院で教育心理学を専攻(中途退学)。1996年、フェミニズムの視線で運営する海外のショップに影響を受け、女性向けアダルトグッズストア「ラブピースクラブ」をたちあげる。著書に『さよなら、韓流』(河出書房新社)、『毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記』(朝日新聞出版)、『アンアンのセックスできれいになれた?』(朝日新聞出版)、共著に『奥さまは愛国』(河出書房新社)など。 竹信三恵子 和光大学現代人間学部教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。WEBRONZA筆者。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです